青エク

□海の悪魔
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「なんでこうなるん…」


体育座りで落ち込む廉造に、今朝の威勢はない。無理もない、ぎらつく太陽に照らされた砂浜は海水浴客で賑わっているのに、その一画の海の家で朝祇たちは売り子をしているのだから。

楽しげな人々の声が、イカ焼きの焼ける音に混ざって空虚に響いた。


***


候補生になってから、雪男が言っていたような実践式の任務とやらが行われるようになった。とはいってもそれは雑用のようなもので、いわゆる下積み時代に近い。

勝呂と子猫丸はバリヨンを探しに多摩川へ行き、朝祇と廉造は出雲と燐と4人で薬草となる海藻探しに伊豆へ来ていた。監督はアゴヒゲとケツアゴが特徴的な椿だ。しかし、海藻探しを早々に終えるなり、4人はとある小さな海水浴場へと連れてこられ、そこでイカ焼きの調理と販売をさせられている。イカ焼きを営業する海の家と、4人が宿泊する民宿は、いずれも椿の妻の実家が営むものらしい。こちらの方がメインだったのではないだろうか、という推測をせずにはいられない。
代わりと言ってはなんだが、朝祇は椿に竜騎士としての銃の訓練に付き合うよう頼んでいた。グロック18Cはしっかりホルスターに入れて鞄に忍ばせてある。
そんなこんなで海の家の前にイカ焼きの幟も立てて、冒頭に戻る。



「志摩、何へこたれてんだよ。それより、お前ら先に泳ぐ順番なんだから行ってこいって」

「そうよ、言っとくけど泳がなかったからって今さら交代しないわよ」


すると、イカ焼きを作り始めた燐と出雲が座り込む廉造を急かした。4人もいるので、最初に燐と出雲が調理し、廉造と朝祇はその間に泳ぐことになっていた。2時間ほどしたら交代して、今度は朝祇と廉造が販売だ。


「ほら、置いてくぞ」

「待ってぇな〜」


朝祇は廉造を振り返らず歩き始める。後ろから、慌てて廉造も追いかけてきた。最初からそうすれば良いものを。
2人で更衣室に入り、水着に着替える。着替えると言っても、男は一通り脱いで短パン式の水着を履くだけだ。しかし、廉造は着替え終わった朝祇を見つめ、何やら真剣な顔になった。


「え、なに」

「…あかん、やっぱ肌見せすぎや」


水着ですから、と朝祇はあまりにも当たり前のことに逆に戸惑った。何をいっているんだこいつは、と思う前に、廉造は自分の鞄からパーカーを取り出した。


「これ濡れてええやつやから、着てくれへん?」

「やだよ、暑い」

「だ、め、や!他のやつに見られとぉないんやって!」


減るもんじゃなかろうに頼み込む廉造に、渋々朝祇は頷いた。日焼け止めを背中に塗る手間も省けるし、まぁいいか、という妥協でもある。
やはり少し大きくて、夏だというのに袖があまる。さすがにそれは捲るが、前も閉めさせられたため、正直かなり暑い。


「まじ暑い…」

「堪忍なぁ…ほな、行こか」


まったく済まなさそうにしていない廉造に促され、2人は海へと向かう。小さい海水浴場と言えどそれなりに人はいて、チラチラと女性たちから視線をもらうのだが、まるっと無視だ。暑すぎて、早く海水に漬かることしか考えていなかった。

すぐに波打ち際にたどり着く。ビーチサンダルに打ち寄せる海水は冷たくて、一帯に響く波の音は夏を感じる。


「廉造、パーカーほんとに濡らしていいんだよな」

「おん、好きにしてええよ。せやけど、溺れんように気ぃ付けてな」

「お前が助けてくれるだろ」

「ンンッ…せやね…!」


変な声を出す廉造は放っておき、朝祇は思いきり波に逆らって進んでいき、膝まで浸かったところで飛び込んだ。頭から冷たい水に覆われ、海水独特の浮遊感に体を任せる。ぷは、と海面に顔を出せば、青い空と緑豊かな山がくっきりとしたコントラストを描いていた。もっと沖に進もうと、まだまだ浅い海底を蹴って背泳ぎのようにして進む。足の感覚から、それなりに深くなったことを確認して海底に足をついて立ち上がり、肩から上を海面に出した。まだ陸地の方にピンク頭が見える。


「おい!廉造のアホ!」


ちょっとテンションが上がっている自覚はある。意味のない罵倒とともに廉造を大声で呼ぶと、何やら両手を合わせて空を仰いでいた廉造がハッとこちらを見る。


「アカン、尊い…とかやってる場合やなかった!てかアホってなんやねん!」


廉造はそんなことを言って、ザバザバと水を掻き分けて進んでくる。あっという間に朝祇に追い付くと、がばりと抱き締めてきた。


「うおっ、」

「つっかまーえた!理不尽なこと言う悪い子は…お仕置きやで?」


にやり、と笑った廉造は、目にも止まらぬ速さでその手を朝祇のパーカーの下に突っ込んだ。そして胸元を指で摘ままれ、背筋をぞくりとしたものが駆け抜ける。


「ひぁ、お、おい!」

「すっかり感じるようになったな〜」


今だに最後まではしていないものの、それなりの頻度でオーラルなものを重ねてきた(業界用語でバニラと言うらしい)。いつも胸を弄られるために、朝祇のそこは感度が上がりまくってしまっていた。


「ここどこだと、」

「海の中やしバレへんよ」


そう言いながら廉造は海パンの中にまで手を突っ込んでくる。防御力の皆無なそれは、簡単に侵入を許してしまい、反応しつつあるそこを捕まれてしまった。


「っんの、いい加減にしろ!」


しかし、さすがにオイタが過ぎた。朝祇は廉造の股間の急所を鷲掴みにし、ひねりあげる。廉造は声も出さずに朝祇から手を離し、力なく海に漂った。
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