青エク

□強くなる
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「ちくしょー…まさか抜き打ちテストだったとは…」


深いため息をつきながら、しえみが眠るベッドに腰掛ける燐。朝祇はその隣のベッドで上体を起こしながら「ほんとにな」とやはりため息混じりに呟く。


「その可能性も考えとくべきやったね」

朝祇のベッドに座り燐と向かい合う廉造は苦笑する。その隣に座る子猫丸、朝祇としえみのベッドの間に椅子を持って来て座る勝呂も頷く。2人のベッドの間は、最近仲良くなった京都組と燐、しえみ(就寝中)の井戸端会議のようになっていた。



***



「サプラーイズ!!」と楽しげに手を打ったメフィストが衝撃の事実を告げて30分ほど経つ。

2体に分裂したナベリウスを倒した塾生たちだったが、燐が戻ってきた直後、メフィストが天井から現れてこう告げた。


「なんとこの合宿は、候補生認定試験をかねていたのです!」


そう言うなり、押し入れ、床下、屋根裏、あらゆる場所から忍者のように講師たちが姿を現したのだ。試験のための強化合宿と言いながら、試験本番だったのである。
一気に脱力したところをまず注射を打たれ、そしてこの医務室に運ばれて点滴を打っている。朝祇と燐はナベリウスの魔障を受けていないから点滴は打たれていないが、朝祇は力を使いすぎてベッドのお世話になっている。しえみは衰弱が酷かったのでまだ寝ている。そんな2人のベッドに燐たちは腰掛け、点滴を受けながら振り返っているところだ。


「僕ちゃんと受かってるんやろかぁ…!」

「そんなん気にしてもしゃあないやろ」


頭を抱える子猫丸に、勝呂が慰めるように言う。だが、子猫丸は「足が立たんようになってしもて…」と不安を拭えない。


「あんたたちは大丈夫よ。奥村先生は直前に念を押していたもの。候補生に求められるのは、実戦下での協調性…その点では私は最悪だけどね」


珍しく、出雲が勝呂たちを認めるようなことを言った。あの戦いの最中で、きっと何か心境の変化があったのだろう。


「お前まだマシやろ…それよりもあいつらや!」


勝呂は出雲の後ろ、離れた位置で点滴を受ける2人を睨んだ。パーカーの山田、そして人形を左手に嵌めた宝だ。2人はずっと後ろにいたものの、勝呂に対しまったく悪びれた様子を見せない。それどころか、宝は「お前らと話すことなんかねぇよガキども!」と腹話術で喋る始末。なんと潔い。

その腹話術に興奮した燐が囃し立てると、そのうるささにしえみが目を覚ました。


「うあ、悪い、起こしちゃった」

「うぅん、大丈夫…みんな何のお話してるの…?」


朝祇と同じように上体だけ起こしたしえみは、目を開ききれないままぼんやりと訊ねる。


「試験のことについてや」

「杜山さんは、間違いなく今回一番の功労者やね!」

「杜山さんおらんかったらと思うとぞっとするわ。ホンマ、ありがとぉな」


子猫丸と勝呂に相次いで褒められ、しえみはたっぷり3秒間ほど押し黙り、そしてハッとしたように目を開いて慌てた。


「い、いえそんな!こ、こちらこそ!」

「杜山さんは絶対受かっとるて」

「杜山さんが受かっとらんかったら、俺らみんな落ちとるわ」


勝呂や廉造の言う通り、しえみは確実に受かるだろう。あのバリケードがギリギリまで粘ってもらえなければ、朝祇や出雲、廉造の力では押さえきれなかっただろう。もっと早くに勝呂まで至っていたはずだ。

自分にもっと体力さえあればしえみに無理をさせずに済んだのにな、と思いながら、朝祇は眠さに目を擦る。もう起きているのも限界だ。どうやったら体力がつくのか、勝呂と毎朝のジョギングでもやろうか、と思い悩む。運動部にでも入っているんだった。


「一ノ瀬もよう頑張ってくれたなぁ」

「そうですね、一ノ瀬君が杜山さんの後に動き止めはってくれたから詠唱最後までできましたもんね」


すると、勝呂と子猫丸はこちらにも話を振ってくれた。反応しないと、と思うがなかなか瞬時に返せない。ともすれば寝そうだ。


「…そうかなぁ」

「一ノ瀬は何したんだ?」

「一ノ瀬君は、神様クラスの麒麟の別種を2体も同時に召還して、杜山さんが倒れる前後でナベリウスの動き止めてくれはったんよ。そのあとも黄龍の力使うて動き止めて、おかげで詠唱しとる間も安心できたんや」

「2体!?すげぇな!」


燐が聞いて子猫丸が答える、というのはお決まりになったようだ。代わって答えてくれた子猫丸に苦笑を向ける。


「みんなが励ましてくれたからだよ…一人で頑張ってる奥村や杜山さんの姿だったり…勝呂や子猫丸、廉造がかけてくれた言葉だったり…一人じゃないって、思えたから」


そろそろ目が開ききらなくなってきた。もう瞼が閉じようと準備しているような感じだ。意識も薄らいできて、呂律も怪しくなってくる。


「…みんなと一緒なら、大丈夫って……みんなと、おれ、いっしょに、きょーりょくして戦いたいなぁって…思ったんだ……」


だから、戦えて良かった。大変だったし死ぬかとも思ったけれど、少し楽しかった。一緒に戦えている実感が持てたからだ。戦わせてくれてありがとう、と伝えたかったが、もう無理だ。寝る。

もぞもぞと掛け布団に潜り、「へへ、」と笑って満足した。すると、温かい手が朝祇の目を覆う。おやすみ、と聞こえた気がした。



一方、残された方の廉造たちは、全員漏れなく顔を赤らめていた。咄嗟に廉造は目を覆って隠したが、あのふにゃりとした笑みはばっちり見られてしまっただろう。何より、勝呂たちも燐もしえみも、直前の朝祇のやたら素直な言葉から赤面し始めていた。


「な、なんや今の一ノ瀬、やたら素直やなかったか!?」

「お、俺の兄貴心が爆発しそうだぜ…」

「わ、私も嬉しかったよ!一ノ瀬君!」

「聞こえとらんと思いますよ、杜山さん…」


素直な言葉への耐久がなく照れまくる勝呂、なぜか兄貴心を刺激された燐、同じく素直に受け止めて素直に返すしえみ、それに冷静に答えることで冷静になろうとする子猫丸。途端にこのカオスを引き起こして見せた朝祇の一種のデレに廉造は頭を抱えたくなった。


「志摩や柔造たちが朝祇をかいらしい言うんが分かる気がしたわ…」

「ちょお坊、俺の言うかいらしいは違うて…今のはただ素直に言うてくれて子供っぽく見えたからかわええだけで、普段の朝祇かてかわええですよ!」

「それは分からんわ」
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