青エク

□冀うは、
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6月に入った頃、祓魔塾にて、雪男から全体にプリントが配られた。明朝体で「候補生認定試験のための合宿について」と書かれている。


「休みにはいる前に、今年度の候補生認定試験があります。候補生になると、より専門的な実践訓練が行われるため、試験は容易くはありません」


祓魔師になるには、まずこの候補生になり、その後称号(マイスター)を取得するための試験を受けて、合格すれば晴れて祓魔師になる。その試験に受かるための勉強合宿をするのだそうだ。
プリントを記入して後で提出するよう言われたため、朝祇はすぐに参加の印をつける。


「なぁ、このマイスターって、なんだ?」

「あぁ?」


そこへ、髪をピンで止めた燐がプリント片手にやって来た。どうやら、マイスターの仕組みを知らないらしい。


「そんなことも知らんで祓魔師目指す言うとるんか!大概にしぃや!」

「奥村君て、ホンマなんも知らんのやねぇ」

「そ、そういうやつもいるんだよ」


例によって勝呂は喧嘩腰になってチクリと言うが、前のような冷たさはない。2人の微妙な空気感の変化は、一種男子の特有なものだろう。
そんな勝呂に代わり、優しい子猫丸が説明を始めた。ちなみに、朝祇とて予習として京都にいる頃に柔造から習っていなかったら分からなかっただろう。そう大差はない。

マイスターは、祓魔師になるための資格のことを言う。刀剣を扱う騎士(ナイト)、重火器を扱う竜騎士(ドラグーン)、医療行為を行う医工騎士(ドクター)、聖典や経典を唱える詠唱騎士(アリア)、そして悪魔を呼び出し従える手騎士(テイマー)である。
国語教諭の免許を取れば教師になれるように、このどれかを取れば祓魔師になれる。
いつのまにか廉造と朝祇が座る席の端に腰を下ろした燐はうなずきながら子猫丸の説明を聞いていた。
そのため、押しやられるようにして廉造とくっつくように座ってしまった。ちらりと廉造を見れば、にこり、と蕩けるような笑顔を向けられて思わず顔が熱くなりかけた。少なくとも体温は上がった。


「ありがとな、子猫丸。子猫丸は何取んの?」

「僕と志摩さんは、詠唱騎士目指しとるんです」

「坊は詠唱騎士と竜騎士、2つも取ろうとまた気張ってはるんよ」


やはり仏法僧らしく、経典を唱える詠唱騎士を3人とも取得する。もちろん、大体の明陀宗の祓魔師たちも取得している。加えて、勝呂は直接攻撃が可能な竜騎士を選択した。


「一ノ瀬は?」

「そういや、朝祇の志望マイスター聞いとらんかったな」


自然な流れで、燐が朝祇にも振ってきた。廉造たちに話したことがなかったため、他の3人も興味深げに見てくる。しかし。


「あー、俺まだ決まってないんだ。暗唱って得意じゃないから詠唱騎士は考えてないんだけど、かといって剣やら銃やら扱うのも…ほら、一応ずっと一般人だったから」


長らくこの世界とは縁がない生活を送ってきたのだ。部活も特にやっていなかったし、剣も銃も身近でない。明陀宗は錫杖を用いた騎士のマイスターを持つものが多く、廉造たちも取れるだろう。
かといって、手騎士は才能が必要で、それがあるかは分からない。まさにこれから授業でやる予定だ。勉強は嫌いでないから、医工騎士が妥当だろうか、とは思っている。だが、いつか廉造や大事な人たちを守りたいと思って祓魔師を目指す以上、やはり戦えたらとは思う。
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