青エク

□関係の進展
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そろそろ天気予報から梅雨前線という言葉が聞こえ始めた頃、それでもまだ関東は晴れが多く、外に出るのは苦ではない。
そう、昼になると同時に購買を利用する学生たちが全力疾走するくらいには。


セレブが集う学園とはいえ、学食を全員が使うわけではない。むしろ人口が多い分、相対的に購買を利用する学生だって少数派であっても多くなる。
朝祇たち4人もその一部で、毎日繰り広げられる昼食争奪戦に参加していた。待ち合わせなんて悠長なことはしない。昼になると同時にそれぞれが走り出し、自分の分を確保する。

廉造と朝祇は教室が階段に近いこともあり、負けることはない。さらにいえば、たまに女子がお菓子をくれる。勝ち組としか言えない。

そして今日、負けそうになっていたのは勝呂だった。


「あかん、坊間に合わないんとちゃう…?」

「もうほぼ売り切れてるな」

「授業長引いてはるんやろか…」


一度に買える量は限られており2人分買うことはできないが、いざとなれば3人で少しずつ分け与える方式をとる。以前、子猫丸が負けたときにそうしたから勝呂も受け取るだろう。


「おっ、坊来はったで!」


そこへ、勝呂がダッシュしてくる。毎日ジョギングしているだけあって、とても速い。残された焼きそばパン1個は、もうすぐそこだ。


「ぼーん、こっちや!」

「おん!」


勝呂はすでに買い終わった人混みを掻き分け、焼きそばパンに手を伸ばした。
しかし、もう一本伸びる手があった。


「なっ、勝呂ぉ!?」

「あぁ!?」


なんと、珍しいことに燐だった。学園で出くわすのは初めてだ。


「なんや、奥村君やんか。こっちで会うなんて珍しなぁ」

「よっす」

「ええ加減その手離せや」

「あ?これは俺の焼きそばパンだ!!」

「俺が先や!!」


最近はおとなしかった2人の間の火花がここに来て再び散る。男子高校生にとって昼食は死活問題、分からないでもないが。


「坊、おとなげないですよ」

「ええか子猫丸、食いもんの恨みは7代まで祟るんや。今ここで決着つけなあかん」

「へぇ、お前子猫丸っつうのか!変わった名前だな」

「聞けや!!」


何やら仏法僧らしいことを言う勝呂だったが、マイペースな燐は子猫丸に絡んでいた。焼きそばパンから手を離して良かったのだろうか。
それに、そろそろ食べる時間もなくなってきている。早く移動したかった。

と、そこへ、何かから逃げるようにして雪男が駆けてきた。一体何事か、と思う暇もなく、「ちょっと来て兄さん!!」と叫んで燐を連れていった。
焼きそばパンは勝呂の手に残されたままだ。


「え、何事?」

「モテはる若先生が、女の子から逃げて来はってん」

「あぁ、なるほどな」


廉造の簡潔な説明で事足りる。確かに不馴れそうだ、燐を口実に逃げてきたのだろう。悪魔相手には容赦ないくせに、そういうところは同年代だと感じられた。


***


翌日は季節を感じる空模様だった。曇天に重い空気、低気圧らしい空気感。
祓魔塾がない日だったため、たまには買い物でもしようと寮に帰ってから外に出てみたのは失敗だったかもしれない。
リビングにいた廉造に出掛けると伝えておいたため、傘持って迎えに来てほしいとメールすればすぐ来てくれるだろうが、そこまでさせたくはない。

だが、雷鳴とともに空からは水滴が落ち始めた。


「最悪…とりあえず雨宿りしないと」


どこかないかとキョロキョロする数秒間で、あっという間に本降りになる。いくらなんでも気紛れすぎだ。
仕方ない、と朝祇は適当に近くに見えている建物へと走った。

古めかしい建物には旧男子寮と書かれ、廃墟のような外観はお化け屋敷のようだ。15分待って小降りにならなかったら廉造を呼ぼうと待ってみることにしたが、雨足は弱まるどころか本格的な雷雨にまで激しくなった。
ジーンズにシャツという出で立ちで濡れてしまったこともあり、吹き付ける冷たい風に震える。とてもじゃないが風邪を引かない自信がない。
廉造を待つにしても時間がかかるし、そもそも旧男子寮なんて普通の案内板には記載がない。
ワンチャン中入れないかな、と扉を開けてみると、予想に反してあっさりと扉は開いた。ひょっとしたら管理人くらいは常駐しているのかもしれない。
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