hrak

□"ヒーロー"
1ページ/11ページ

一夜明け、翌日。
リカバリーガールからすれば軽傷だった灯水たち雄英生は、もう今日には学校に戻ることになっていた。切島は完全に包帯も取れて、もともと無傷の緑谷、点滴を受けた麗日も大丈夫そうだ。
傷の種類が種類である灯水は、少し足を引きずって右腕も力が入りにくいが、1週間もしないうちに治るとのことだったので帰寮する。

天喰と波動も同様だが、ミリオだけはまだ入院することになった。怪我の程度が重いためだ。エリも隔離が続く。

更に、事態は少し悪くなっていた。護送中だった治アたちが敵連合に襲撃されたのである。
襲撃犯は死柄木、荼毘、コンプレス、そしてトカゲのような見た目のスピナーだ。コンプレスは恐らく、八斎會の邸宅に出現した方はトゥワイスによる複製で、高速道路で警察を襲撃した方が本体なのだろう。
向こうも一枚岩ではなかったらしい。

敵連合の襲撃で、完成品の個性を消す薬は奪われ、警察は負傷、護衛のヒーローは行方不明となり、治アは両腕を切断された。大損失に対して世間の警察への批判が高まり、今朝もずっと報道されている。
住宅街を破壊するほどの激闘となった八斎會の捜索そのものも報道が続いており、世間に与えたインパクトはかなり大きなものとなっているようだ。

相澤には事前に待合室で集合するように言われているため、帰寮する前にミリオのところへ寄ることにした。世話になっておいて挨拶もないままというのは嫌だった。相澤の話では、休学の形をとるのが現実的らしい。

ミリオの病室へ行くと、扉は閉まっているにも関わらず、中からは大きな笑い声が響いてきた。ミリオのものだ。どうしたのかと思って扉の前で立ち止まってしまう。


「先輩……」

「分かってる」


すると、緑谷の声。どうやら緑谷も挨拶に来ていたようだ。ミリオは笑うのを止めると、真剣な声になる。


「個性を失って、ナイトアイまで逝ってしまった。笑ってられるような心境じゃない…だからこそさ」


扉の前で盗み聞きのようになっているのは良くないとは思うのだが、直接聞くことなどできるはずもないミリオの今の心情を確かめることができて、少し灯水の中ではよかったと思う。無神経なことは言わないよう気を付けるつもりでいるが、ミリオの明るい態度をいたずらに疑うこともしたくなかった。


「ナイトアイさ、君にはああだったけど、俺と話すときは結構笑ってくれてたんだぜ。だから、めそめそしない。だって俺は将来、立派なヒーローになるからさ。俺が暗い顔してたらエリちゃんもつらいだろうしね」


あまり灯水は直接感じたことはなかったが、ナイトアイがどこか緑谷には挑戦的というか、好意的でなかったのは知っていた。そういうところも、オールマイトとの何かを感じさせていたのである。それでも、灯水との面接でそうだったように、ナイトアイは決して笑わないわけではない。
エリの目の前でミリオが個性を失ったこともあり、ミリオは自分の心境よりも笑うことを選んだ。


「…先輩に比べて、僕は、守らなければならないエリちゃんに助けられて、先生にも助けられて…もし先輩が後継者だったら、ナイトアイだって…!!」


(後継者?)


灯水は緑谷が苦しそうに言う言葉に引っかかる。続けて、緑谷から衝撃的な言葉が出て来た。


「もし…!もし僕が個性を先輩に渡せるって言ったら…!!そしたら、」

「いらないです」


個性を、渡す。いったい何を言っているのか。遺伝子異常であり、体の様々な細胞に現れる個性因子によって個性が使えるのだ。それを、別の人間に譲渡するなど聞いたことがなかった。
こんな場面で実現性のないたとえ話を、それもこんな必死にやるとは思えない。これは、たとえ話ではなく、事実の可能性が高い。
しかしミリオはばっさりと断った。


「もし仮に本当にそんなことが可能で、俺が譲ってもらったとしてさ。そしたら今度は君が苦労するだろう!何をしょぼくれてんのか知らないけど、君はよくやった!ヒーローデクだよ!」


ミリオは緑谷を慰めるように明るくその後も話し続けた。今後はエリの力で戻せるか聞いてみるつもりだという。それまでは休学だ。
一方で、灯水は廊下のすぐ近くに気配を感じていた。緑谷が出てくる前にそちらへ向かう。


「…オールマイト」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ