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□死穢八斎會戦/後編
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「先輩ッ!!!」


灯水は叫んで、蒸気によって一瞬でミリオのもとへ飛んだ。傍らにはエリが怯えて座っている。
素早く周りを見ると、拳銃を持って倒れる男、恐らくリストに乗っていた、真実吐きの個性を持つ音本がおり、ミリオたちの近くには幹部であるクロノスタシス、玄野がいた。
灯水は無視してきたが、廊下には酒木が倒れていたことから、ミリオによって3人の幹部がすでに倒されていることが分かる。

離れたところで立っている治アも少しふらついていて、ミリオはたった一人でここまで追い詰めたのだ。


「誰かと思えば、雄英体育祭で3位の有名人じゃないか。現代病の集団感染病棟で洗脳される可哀想な少年だ」

「あいつが…!」


小奇麗な顔をした治アは、そんな訳の分からないことを言っていた。ヤツの最終目的が何かは見えないが、今はそんなことはどうでもよい。


「先輩、大丈夫ですか」

「余裕、だよね…」


撃たれたところを見ると、小粒の弾丸が刺さっている。あまり血は滲んでいない。摘出するべきか迷うが、食い込んでいることや戦闘中であることからやめた。


「個性なんてものが備わってるから夢を見る…自分が何者かになれると…」

「っ、まさか先輩、これ…」

「個性を壊す薬だよね、透過できないし」

「なっ…!」


語り出す治アの言葉から、まさかと思って尋ねれば、それは個性を壊す薬だった。天喰に撃ち込まれたものと同じだ。
銃を撃ったらしい音本は、もう戦えないのか、銃を落として震えながら倒れ伏した。天喰に撃たれたものは、市場に出回るいわば試供品だった。しかし今回は本拠地の幹部が撃ったもの、完成版であるかもしれない。


「笑えるな!お前が救けようとしたその子の力で、お前の培ってきたすべてが今!無に帰した!!」

「これ、そんな、」


無に帰した。その表現が示すのは、この銃弾が完成されたもので、ミリオが永遠に個性を失ってしまったかもしれないということだった。
それに愕然とすると、瞬時にミリオが飛び出した。目にもとまらぬ速さで駆けだしたミリオは、転がっていた玄野を蹴っ飛ばし、治アにぶつけた。

その隙に、ミリオは治アに迫って拳を叩き込んだ。腕で防いだ治アだが、顔が痛みに歪む。


「先輩!!」


皆まで言わずとも、ミリオは灯水のニュアンスをくみ取っただろう。個性を失った状態で戦闘を続ける危険を冒すなんて。しかしミリオは振り向かなかった。


「灯水君!相手をよく見て動きを予測するんだ!」

「っ、」


よくミリオが言っていた、ビリからトップに上り詰める秘訣。ナイトアイのもとで学んだ戦い方だ。ミリオは更に拳を握り治アに向かう。


「何も…これまでのすべて何もムダになっちゃいない!俺は依然、ルミリオンだ!!」


治アが突き出したパンチを避け、ミリオが逆に治アに拳を入れる。近接戦が繰り広げられるが、治アに触れられたらおしまいであり、ミリオが透過できないという状況である。
圧倒的にミリオが不利な状況でも、ミリオは立ち向かった。

エリを見ると、ミリオのマントに包まれて震えている。目の前で起きていることが自身に起因するからだろう。
灯水は、エリを優しく抱きかかえた。マントごと腕の中に抱いて、触れる部分だけ体温を上げる。


「…もう大丈夫だから、エリちゃん。安心して。先輩も大丈夫」

「……でも、」

「平気だよ。なんてったって先輩は、百万を救うんだ」


灯水はそう言ってエリの頭を撫でたあと、座標のように水の糸を空間に張り巡らせた。床や壁に沿って展開される糸によって、瞬時に個性の発動が可能になる。先日のミリオとの戦闘で使ったようなものだ。


「先輩!あと5分くらいでナイトアイが来ます!それまで俺が援護します!!」

「おう!任せたよね!!」


ミリオは治アと格闘しながら答えた。ナイトアイたちがやってくるまで、灯水はミリオとともに、エリを守って持ちこたえなければならない。
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