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□焦凍、焦燥、衝動
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仮免試験を終えた夜。
寮の焦凍の部屋にやって来た、というか帰って来た灯水は、焦凍の沈んだ表情にどうしようかと迷っていた。

補習によってまだチャンスがあると分かっているものの、やはりA組のうち爆豪と2人だけ落ちたことはショックだったのかもしれない。あまり、挫折という挫折の経験のない焦凍のことだ、灯水は少し心配だった。


「…焦凍、気にしてる?」

「……気にしてねぇってのは、嘘になるな」


言葉はみなまで言わずとも焦凍には伝わった。布団を敷きながら返した焦凍の声に覇気はない。
ただ、その言葉にはまだ含みがあった。仮免試験の結果だけではないような、そんなニュアンスだ。


「…他にもなんかあった?」

「……いや、これは俺自身の問題だ」


あるかないか、という答えには返さずに、それだけ言う焦凍。つまり話す気はないということだ。別にすべてを話し合う必要もないとは思うが、暗い顔をしていれば心配になるし、できることがあるならしたいと思う。
灯水はヒーロー志望なのだし、何より、双子兼恋人でもあるのだから。

しかし焦凍の顔には拒絶の色がはっきりと出ていて、きっと何を言っても届かないのだろう。灯水はまだ、こういうときにどんな言葉を投げかけるべきか、もしくはどういう態度を取るべきか、分からない。仮初の人付き合いをやめた今、灯水にとってもコミュニケーションというものはひどく難解なものに思えて仕方なかった。



***



「喧嘩して謹慎〜!!??」


翌朝、寮の共有スペースにて掃除機を準備している緑谷と爆豪の姿があった。登校する用意をして集まっていたA組の面々が首を傾げ、芦戸が緑谷に聞いたところ、そう返答があったらしい。

「バカかよ」「骨頂」など様々な言葉が浴びせられる。高校生にもなって喧嘩して謹慎とは、青春だな、と他人事のように思った。というか、完全に他人事だ。
焦凍は爆豪に仮免の補習のことを聞いていたが、爆豪は「うるせぇ」としか言わない。

昨晩、結局焦凍とは何も話さずに朝を迎えていたが、起きてからの焦凍は普通だったので、とりあえずいつも通りに接している。時間が解決を導くこともあるだろう。

謹慎の2人を放っておいて、A組はさっさと本校舎へ向かうことにする。このあっさりとした空気が嫌いではなかった。


そうして本校舎にいったん集合してから、相澤に簡単に始業式の流れを説明され、今度はグラウンドへ向かうことになる。そういえば、入学式に出ていないA組は、終業式とこの始業式がようやく2回目だ。


「なんか始業式出られるって感慨深いね」

「お前が言うと重いな」

「え、いやそういうことじゃなくて…」


名前順に列を作って歩いているので、灯水は前の焦凍にそう話しかけた。焦凍はどうやら、神野区の事件のことを念頭に置いているようで、そんな重い話として振ったわけではない灯水は苦笑した。
確かに、拉致された身としては、こうして無事に始業式に出られることも感慨がある。


「みんないいか!?列は乱さずそれでいて迅速に!グラウンドへ向かうんだ!」

「いや乱れてんのおめーだけだよ」


列から外れて勢いよく言う飯田に、瀬呂が呆れたように指摘した。相変わらずだ。飯田は「委員長のジレンマ!」とよく分からないことを言っていた。
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