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□置いて行かれたのは
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必殺技訓練を夏休みの最後の10日間ほどで行い、それも終わった8月末。まだまだ太陽はギラギラと輝き、地面も空気もじわりとした熱を持っている。

そんな中灯水たちA組は、バスに揺られて少し雄英から離れた街へやってきた。東京の代々木を彷彿とさせるような巨大な施設は、国立多古場競技場。

今日はヒーロー仮免許取得試験の、本番当日である。



***



バスから降りたA組の面々は、暑い日差しの下、半そでの制服姿でぞろぞろと集まった。雄英として、昨今の状況からしてここで仮免を取得することは非常に重要視されている。
それもあって、どことなく生徒たちは緊張した面持ちだった。

コスチュームの入ったケースを手に持って、少し不安そうにしている耳郎や峰田は弱気なことを口にする。
そんな生徒たちを鼓舞するように、相澤が口を開いた。


「この試験に合格し仮免許を取得できればお前ら卵は、晴れてひよっこ…セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」


集まった生徒たちは相澤の言葉に気を引き締める。生半可なことはしてきていない。付け焼刃に近い凝縮訓練だったとはいえ、国内最難関の雄英で研鑽してきたのだ。


「っしゃあなってやろうぜひよっこによぉ!」


その覚悟を確かめるように、切島が勇んでいった。軽く円陣のような形になって、切島の音頭に合わせる。


「いつもの一発決め手いこーぜ!!せーのっ、Plus…」

「Ultraァ!!!!!」



すると突然、切島の後ろから聞きなれないとんでもない声量が響き渡った。驚いて全員そちらを見ると、190センチはありそうな巨体で制帽を被った男子生徒がいた。
それは、久々に見る友人の姿。


「勝手によそ様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」

「ああしまった!どうも、大変、失礼致しましたァ!!」


背中に手を回して休めの姿勢を取ると、謝りながら地面に頭を打ち付けるほど低く下げるその生徒は、かつて雄英の推薦で一緒になった夜嵐イナサだ。士傑高校に通っているため、後ろで注意した大正っぽい制服の生徒たちも士傑の者だろう。
基本的に仮免は2年から取るため、ほとんどの生徒が先輩と思っていい。イナサの実力を考えれば、1年から試験にいてもおかしくはなかった。


「一度言ってみたかったっスPlus Ultra!自分雄英高校大好きっス!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!よろしくお願いします!!」


とんでもないテンションでぐいぐい来るタイプはA組にはいないため、A組も若干引いていた。好意的な言葉であってもだ。灯水は、たまにメッセージアプリでやり取りはあるものの実際に会えていなかったイナサに声をかける。


「久しぶり、イナサ君」

「あっ!!灯水!!久しぶりだな!!」


近づいて挨拶すれば、イナサはテンションをさらに上げて顔を輝かせると、灯水を突然抱き締めてきた。暑苦しいを通り越して痛みが走る。普通に圧力がすごい。


「ぐえ、つぶれる…」

「ごめん!!でも嬉しくて!!」

「謝るなら一回腕どけて…」


筋肉に四方から包まれている感じだ。なんとか脱出すると、灯水が知り合いだったことでさらに不思議そうにするA組に相澤が補足を入れた。


「夜嵐…昨年度、つまりお前らの年の推薦入試トップの成績で合格したにも関わらず、なぜか入学を辞退した男だ」


灯水たち兄弟が受かった推薦で、さらに上の成績だったという事実にざわつく。焦凍とはタッチの差での合格だったように思うが、そもそも推薦で辞退することが不自然ではある。


「神野区の事件に巻き込まれたの、無事でよかった!安心した!」

「うん、大丈夫、ありがと。今日は頑張ろうね」

「おう!!」


変なヤツとはいえど、実力は確かだし、それにいいヤツだ。とても優しいし、ひたむきで実直な性格は好ましく思える。
士傑の先輩に呼ばれてイナサが離れていくと、今度は違う方向から声がかけられた。
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