hrak

□新たな双子の形
1ページ/11ページ

入寮の翌日、さっそくA組は徒歩5分で登校した。ほとんど皆で一斉に移動するのは新鮮で、どことなく皆テンションが高い。
灯水はといえば、焦凍と寝ているときに意識しすぎてあまり寝られず、寝不足だ。すぐに眠りに落ちた焦凍がもはや恨めしい。

教室に入り、全員席に着く。同じタイミングで登校すると、朝の談笑の時間にならずつい席に座ってしまうのが面白かった。

そうして全員珍しく席に着いた状態で相澤を迎えると、どこか相澤も物足りなさそうにしながら教卓に立った。


「皆おはよう。昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ。ヒーロー免許ってのは人命にかかわる責任重大な資格だ」


ヒーロー免許は、個性社会に対応した複合的な資格である。前超常時代、犯罪者を捕まえる警察権は警察が独占していたが、今は犯人逮捕にあたっての確保までなら、現行犯や捜査令状の出ている者に限りヒーローが行える。もちろん、実際の逮捕は警察の範囲である。治安維持の公権力を一部付与されているのと同じなのだ。
また、ヒーローのもうひとつの重要な仕事である救助についても、医師免許や特別な資格を持つ者にしかできなかったことがヒーロー免許に含まれている。たとえば、傷病者の程度に応じて優先順位を決めるトリアージは、助からない命を切り捨て助かる命を確実に助けるものであり、従来は医師の中でも限られた者にしか許されないものだった。そのトリアージや、現場での応急処置など、救急救命に関わる広範な仕事がヒーローには可能になっている。

その他、現場の封鎖や避難指示、消防活動、一時的な所有財産権の可侵、道路交通法等の法律の不適応など臨機応変な対応を最大限可能にする様々な力がこの免許には許されているのだ。
人々の生活や財産の権利など一時的に人権を制約することを許すというのは、非常に特別なことであり、だからこそ勝手にヒーロー紛いのことをしたステインの事件や神野区の事件で怒られたわけだ。


「当然取得のための試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る」

「仮免でそんなきついのかよ…」


5割以下の合格率と聞き、峰田の情けない声が聞こえてくる。他の皆も顔が険しくなる。が、それも束の間。
相澤が指をくい、とすると、扉からミッドナイト、セメントス、エクトプラズムが入ってくる。



「そこで今日から君らには、最低でも一人二つ、必殺技を作ってもらう!」

「学校ぽくてそれでいてヒーローっぽいの来たぁ!!!!」



***



ヒーロー科は、仮免に向けて夏休みの残り10日間を必殺技の習得に向けて費やすことになった。場所は体育館γ、セメントスが考案したコンクリートの建物で、生徒に合わせて床からコンクリートを変形させて対応することができる。
T(トレーニングの)D(台所)L(ランド)というらしいが、ちょっとダメな気がする。

セメントスが作り出した岩山のような空間に各自が散らばり、一人につき一体のエクトプラズムの分身がつく。そこをミッドナイトが回っていくというスタイルで、常にアドバイスをもらえる環境なのはありがたい。

焦凍や爆豪、灯水は個性が派手で広範囲に広がるため、岩山の最も高い部分にそれぞれ配置された。遠くに氷結や炎、爆発を見つつ、灯水もエクトプラズムとともに必殺技のイメージから入ることにした。


「何カ考エテイルモノハアルカ?」

「具体的なものは特に…ただ、攻撃力が足りないのがネックなんです」


必殺技は何も攻撃である必要はない。飯田のレシプロバーストのように、これがあれば勝てる、という形を指すのだという。ただ、もとより攻撃力が足りない灯水は、その克服に取り組みたいという意思があった。


「轟兄ノ必殺技トイエバ、ヤハリ超臨界水ダロウ。ソノ強化ハ図ルベキダロウナ」

「あ、そっか…そうですね、とりあえず今日はそうします」


限られた場面でしか使えないものの、金すら溶かす最強の液体であることを考えると安定させたいところである。


「名前モ重要ダ。技トシテ形ニスルノニ必須ダゾ」

「名前…」


灯水の苦手な分野の話だ。そういうセンスが自分にあると思えなかった。どうしよう、と思って、ふと少し下の方にいる瀬呂が目に入ったので聞いてみた。


「瀬呂君、ちょっと相談なんだけど」

「えっ、俺!?」


なぜか嬉し気に驚く瀬呂に首を傾げつつ、名前のことを聞いてみた。


「技名ってどうすればいいと思う?そういうの苦手で」

「あー…まあ、自分で納得すりゃなんでもいいと思うけど、とりあえず英語にしとけばそれっぽいみたいなとこないか?」

「超臨界水なら…スーパークリティカル」

「おお、すげえそれっぽいじゃん」

「めっちゃそれっぽい。ありがと!」


なんだかものすごく強そうだ。イメージしやすいというのは本当で、灯水はだんだん楽しくなってくるのを感じた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ