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□神野区の悪夢/前編
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林間合宿での敵の襲撃の翌日。焦凍は食堂で朝食を食べてから、保健室で足の包帯を変えてもらってから男子の大部屋に戻ってきていた。
大部屋には女子も含めてA組が全員集合している。といっても、焦凍を入れて15人だ。耳郎、葉隠、八百万は意識不明、緑谷は全身重傷で4人が入院している。入院先はこの近くの病院で、A組とB組の無事だった者はしばらく合宿所で厳戒態勢のもと泊まっていた。今帰る方が危険だからだ。

そして残る2人。爆豪と灯水は、行方不明である。

B組と合わせると意識不明が15名、重軽傷者は11名となり、合宿中の敵襲によってここまでの被害を出した雄英は世間でバッシングされている。相澤とブラドキングは警察と合宿所を行ったり来たりしていた。
プッシーキャッツもピクシーボブが重傷でラグドールが行方不明だという。マンダレイと虎が施設の運営を続けてくれているが、それでも彼女らの顔は焦躁に駆られているのがよく分かった。

もちろん生徒たちも全員暗い表情だ。A組も、大部屋に集合していながら無言である。部屋に戻って来た焦凍を見て、麗日が声を発してようやくその沈黙が破られた。


「轟君、大丈夫だった?」

「…ああ、問題ない。かすり傷だ」


麗日は足の傷を言っているが、言外に精神状態のことも尋ねていると分かる。

昨晩、爆豪と灯水がワープの向こうに消えた直後。緑谷は叫んで地面に突っ伏し、焦凍は呆然と地に膝をついた。目の前で、伸ばした手の向こうで連れ去られた灯水の凪いだ顔と、なぜか謝った声だけが頭をぐるぐると回った。虚ろになってしまった焦凍は誰の呼びかけにも答えず、気が付いたら病院で診察を受けていたのだ。
そんな様子を見ていた麗日だから心配しているようだった。

大丈夫かと言われれば、正直大丈夫じゃない。今にも走り出したくなる。どこかに攫われた灯水を探しに行きたくなる。ともすれば、不甲斐ない自分の悔しさに叫びたくなった。
それでもそうせずにいるのは、思考が霞がかったようになっているからか。

適当に壁際に腰を下ろすと、空気が動いたからか上鳴が口を開いた。


「…あのさ。なんで爆豪と灯水だったんかな」

「…爆豪ちゃんについては、体育祭での様子がつけいる隙だと捉えられたんじゃないかしら」

「ワンチャン仲間にできるかもってことか?」


それには、考えていたのだろう蛙吹が答え、切島が悔し気に聞き返す。蛙吹はひとつ頷いた。焦凍もその線が濃厚だと思っている。人質なら無作為でいいし、抵抗しなさそうなのを狙うはず。あえて爆豪を狙ったのは、爆豪に「敵の素質」を見たからではないだろうか。


「灯水は?あいつ強いけど、そういう意味では普通だったじゃん」

「…灯水ちゃんについては私も分からないの。どれだけ考えても、わざわざ指名して連れ去るような必要が思い浮かばないわ」


芦戸が尋ねると、蛙吹は首を横に振った。「だよね…」と芦戸はうつむく。
そう、灯水が連れ去られた理由が分からないのだ。爆豪に匹敵する個性で体育祭でも3位だった灯水が扱いやすいわけがないし、爆豪ひとりじゃない理由がない。


「常闇については黒影の力に興味を持ってついでにと言っていた。轟兄もそれでは?」


連れ去られたときにそれを見ていた障子の複製腕の口が喋るが、瀬呂が否定する。


「いや、テレパスの段階で爆豪と灯水が指定されてたんだから、そんなついでじゃねぇだろ。それに単純に強さなら轟の方でも良かったはずじゃん」


結局誰も分からず再び沈黙になると、さきほど同様上鳴がそれを破った。
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