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□林間合宿と動揺
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期末試験期間が明け、登校日となった。いつものように灯水と焦凍が教室に入ると、教室後方で切島、上鳴、芦戸、砂藤の4人がとてつもなく暗い雰囲気を纏って立っていた。
目を閉じる切島、涙目の芦戸、宙を見上げる砂藤に俯く上鳴とそれぞれ悔恨に満ちている。実技試験の結果が良くなかったからだろう。


「皆…土産話、ひぐっ、楽しみに、うう、してるからぁ!」

「ま、まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないよ!」

「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ」


泣きじゃくり始めた芦戸に緑谷が慰めの言葉をかけるが、瀬呂は余計なことは言うなとばかりにそれを止める。上鳴は何やら言って緑谷に目つぶしをかけていた。


「相澤先生、ほんとに赤点は補習にすんのかな…」

「さあな、あの人のことだから合理的虚偽とか言いそうだ」


2人で顔を見合わせていると、予鈴とともに相澤が入ってくる。途端に席について静まり返るA組。


「おはよう、今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって…」


赤点を覚悟していた4人は悲愴な面持ちだ。上鳴に至っては悟りの境地にでも達したのか、うっすら微笑んでいる。尊いあほ面だ。




「林間合宿は全員行きます」

「「「「どんでん返しだぁ!!!」」」」



***



高速道路を走るバスの車内は喧騒に満ちていた。通り過ぎる風景は山間ということしかわからず、一応中央道ということは分かっているのだが、目的地は今だ不明だった。

どんでん返しのあと、A組の一部は必要なものを買いにデパートへ行ったようなのだが、なんとそこで死柄木弔が緑谷と接触したのだという。緑谷は買い物客を人質に取られた状態で死柄木と会話を続けるほかなく、そのときはただ会話して死柄木は帰ったようだ。
通報した麗日のおかげでことなきを得たが、この短期間に敵との遭遇率が高いのか気になる。
ちなみに灯水は誘われたが断って自宅にいた。

そんなこともあったので、雄英側は急きょ宿泊先をキャンセル、当日まで誰にも知らせない形で合宿を行うことになったのだ。なので、この車内で行先を知っているのは相澤だけとなる。

しかし車内はそんなことがあったとは思わせない賑やかさである。前方の上鳴と切島はスマホで夏っぽい音楽と爆音で流しているし、ポッキーやらなんやらのお菓子が席を回っているし、飯田は「席を立つな」と注意しているが立っているのは飯田だけだった。
そんな車内の前から2列目に、灯水と焦凍は並んで座っていた。灯水は窓側、焦凍と通路を挟んで反対側に緑谷と飯田がいる。


「う、うるさい…」

「そうか?」


寝ようと思っても寝られない喧騒に思わずそう言うと、焦凍はまったく気にしていなさそうにしている。少しからかいの色がその目には浮かんでいた。


「あんなぎりぎりまで寝ておいて眠いのか」

「うるさいな!」


実は今朝、灯水は珍しく寝坊してしまった。隣で寝ていた焦凍も起こしてくれればいいものをぎりぎりまで放っておいたため、灯水は朝食を抜いて家を出てきたのだ。今灯水の腹は空腹で騒がしくなっている。
これはもう寝るしかないと思って寝ようとするが、この喧騒だ、とても寝られない。


「お腹空いて苛立ってんの、寝かせてくれマジ」

「そうか。じゃあ、ほら、こっち来い」


すると焦凍は灯水の肩を抱くと自分の側に引き寄せた。焦凍の肩にもたれる形となり、思わずきょとんとする。


「え、なに」

「寝やすいだろ」


さらに空いている左手を温めて灯水の目元に当ててくれた。久しぶりに焦凍の彼氏力の高さを見せつけられて、いらだっていたのが収束した。


「…ありがと」

「おう」


目元の温かさと焦凍の体温に支えられ、無事に灯水はひと眠りありつくことができたのだった。
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