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□迷い―期末試験
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職場体験も終わり、学校が始まった。1週間で皆それぞれに大きなものを得たようで、雰囲気が変わった者もいれば充実したように語る者もいた。
灯水は自分の席でそんなクラスの様子を眺めていたのだが、途中から上鳴たちがヒーロー殺しの件を話し始めると、焦凍たちは事前に決めた通り「救けられた」とエンデヴァーの功績を認めた。事の真相を知るのは灯水と焦凍、緑谷、飯田の4人だけだ。
緑谷たちは焦凍の席で固まって、苦笑しながら話していた。それも遠目に見てから、灯水は予鈴まで机に突っ伏した。



***



その日のヒーロー基礎学は演習場γにコスチュームで集合することになっていた。灯水は太ももに空いたナイフの跡だけ修復したコスチュームを着てひとりで集合し、クラスのメンバーから少し離れたところに立っていた。
なんとなく、今日は誰かと話したい気分ではなかったのだ。正確には、登校してからそう思った。


「はい私が来た。てなわけでやっていくけどもね、はい」


オールマイトはいつものようにひとり違う画風で立つが、入りはぬるっとしていた。ひそひそとパターンが尽きたかと囁かれるが、無尽蔵だとオールマイトに返されていた。


「職場体験直後ってことで、今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」

「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」


救助訓練レースという内容にぴんと来ないでいると、飯田がびしっと手を上げて尋ねる。飯田は傷もひどくコスチュームの損壊もひどかったため、両腕に包帯をして体操服を着ている。


「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何と言ったかな?そう、レース!」


オールマイトが言うには、この演習場γで誰が先に救難信号を出したオールマイトのところに駆けつけられるかを競うのだという。演習場γは工業地帯を模して造られた区画で、煙突や配管が無数に並ぶ武骨な街並みだ。地形が複雑に入り組んでいるだけでなく、本物の街だった場合には可燃性の物質や誘爆性のあるものがある恐れもある。
色々と気を付けなければならないことを前提とする場所である。

5人1組で4レース行い、生徒たちが区画の外から救難信号に向かって一斉スタートする流れだ。待機している間、生徒たちは大きなモニターで観察する。灯水は最終組で、そこだけ人数の都合で6人になる。

モニターの前では待機組が1組目の1位を予想する。1組目は緑谷、尾白、瀬呂、芦戸、飯田で、クラス内でも機動力のある者が集まっている。緑谷の不利を予想する声が多いが、あの路地裏での戦いでの動きを考えるとそうとも言えない。

そうこうしているうちに5人の配置が終わり、オールマイトの救難信号が発せられる。それがスタートの合図だ。


「ほら見ろ!あんなごちゃついたとこが上行くのが定石!」

「となると、対空性能の高い瀬呂が有利か」


スタートと同時に、瀬呂がテープを出して巻き上げる形で配管の上に現れる。瀬呂が1位になると予想していた切島が画面を指さすと、近くの障子が頷きながら分析する。
尾白も尻尾で地面を叩いて跳躍しながら進み、芦戸は酸で溶かしながら上に上がると、足に酸をまとまわせて配管の上を滑るように移動する。飯田はいつものようにエンジンを噴かせて俊足だ。

そんな中、瀬呂の横を勢いよく通り過ぎる影があった。バチバチと光を纏った緑谷だ。
緑谷の地面の一蹴りはとても通常の人間には不可能な跳躍を生み出し、それによって滞空時間を長くして素早く進んでいた。うさぎのように飛んで行くのを画面内の芦戸たちも、モニターの前の待機組も驚いていた。
結局、緑谷は途中で足を滑らせてしまったため瀬呂が1番ではあったが。


だが、成長したのは緑谷だけではない。他の皆も、この1週間でそれぞれプロの現場を見て、個性の使い方に幅を持たせられるようになっていた。皆、ヒーローになるために成長を続けているのである。
焦凍だって、先の路地裏での戦いでもそうだったが、炎を使うようになって幅が出た。2組目のレースに焦凍は出ていたが、氷による移動に炎による推進力を加えてさらに加速しているようだった。
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