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□燃えろ体育祭/後編
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騎馬戦終了後、灯水はすぐにリカバリーガールの出張保健室に向かった。一度昼食休憩ということでA組のメンバーは食堂に行った。昼休憩を挟んで午後から最終種目だ。

その前に、灯水は足と手の怪我を診てもらうことにしていた。痛くてまともに食事もできないからだ。


「チユ〜〜〜〜」

「う、わ…」


実は初めて世話になったリカバリーガールの力。キスまがいのことをされて引いてしまうが、すっかり治っているのを見て驚く。ここまで綺麗に治るとは思わなかった。
妙齢のリカバリーガールは雄英においても重鎮で、校長につぐ発言権を持つとされる。その個性はけが人の自然治癒力を高めて怪我などを回復させるもので、使いすぎれば体力のキャパを超えて逆に死んでしまうというのはあるが、やはりすさまじい個性である。


「す、すごい…ありがとうございます」

「はいよ。最終種目は協議中の保健室利用が可能だ、我慢して壊死したら元も子もないからね、ちゃんと来るんだよ」

「はい」


なぜか飴をもらってから礼をもう一度言ってその場を後にする。メインの出口の方を見ると生徒たちの人込みができていたため、それならこの出張保健室から近い関係者用廊下から行こうと方向を変えた。

薄暗い廊下を歩いていると、角を曲がったところに体操服が見えた。あのガラの悪い立ち方は爆豪だ。なぜか次の角のところに立ち尽くしている。壁にもたれて進む気配のない様子に首を傾げて声をかけようとすると、先に気づいた爆豪が口元に指を当てる。「黙れ」のポーズだ。
一応声を出さずに爆豪のところまで行くと、角の向こうから聞きなれた声が聞こえてきた。


「なんの話だよ轟君…僕に何を言いたいんだ…」

「個性婚、知ってるよな」


話しているのは、焦凍と緑谷のようだ。色々と察して、思わず灯水も立ち止まってしまう。出るに出れないし、戻るには焦凍がどこまで語るつもりなのか気になってしまう。


「超常が起きてから、第二〜第三世代間で問題になったやつ」


個性の遺伝性が明らかになってから増加した、個性の継承のためだけに配偶者を選ぶ婚姻のことだ。それ自体が悪いというわけではないだろうが、場合によって意にそぐわない結婚であることもあった。そう、灯水と焦凍の母のように。


「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい…!俺はそんな屑の道具にはならねぇ」


心の底からの憎悪の籠った声音で語られる言葉に、緑谷の息を飲む音がして、爆豪の体がぴくりと震えた。親しくはなくとも見知ったクラスメイトの壮絶すぎる一面に気圧されたのだろう。


「記憶の中の母はいつも泣いている…「お前の左側が醜い」と、母は俺に煮え湯を浴びせた」


今でも鮮明に覚えている。家中に響き渡った焦凍の泣き声と、母の絶叫。蓄積された悲劇が重なった地獄のような日だった。病院から帰った焦凍にいきなり修行を強いて、母を病院に隔離した炎司に対して、焦凍は幼いながらに今と変わらぬ憎悪を抱いていた。


「…唯一あいつが俺によこしたプラスなものは、灯水の存在だ。どん底の憎しみしかなかった俺の側で、父に出来損ないと、俺の劣化版と罵られながらずっと一緒にいてくれた。灯水がいなきゃ、俺はもっと……」


焦凍はそこまで話して、ここからは関係がないと判断したのだろう、言葉は続けず、別の言葉を口にした。


「ざっと話したが、俺はお前につっかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんかなくたって…いや…使わず”一番”になることで、ヤツを完全否定する」


足音がして、どうやら焦凍が立ち去ろうとしているのが分かる。しかしそこに、緑谷が口を開いた。


「僕は…ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる」


緑谷の声は静かで落ち着いている。だが、弱気でもなければ悲観もしていない。静かな闘志が燃えていた。


「僕だって負けんらんない。僕を救けてくれた人たちに応えるためにも…!さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!!」


あくまで緑谷は、正面からぶつかることを選んだ。勝手に復讐の道具に使われているというのに、それでも受けて立つと言ってくれているのだ。その緑谷の強さが、なぜだか灯水には痛かった。
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