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□燃えろ体育祭/前編
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USJでの戦いの翌日は臨時休校となった。1年生が始まって3日目にして敵との戦闘をやらされたと思えば、次にやって来るのは雄英最大のイベントだった。


「体育祭、かぁ…」


灯水は湯気の立つ鰤そばを啜ってから呟く。正面に座る焦凍は「そうだな」と短く返すだけだ。

雄英高校体育祭、それは超人社会となった現代日本最大のイベントといっても良かった。前超常時代は、オリンピックが世界を賑わすイベントとして開催されていたが、現在は個性禁止というだけで人気をなくし、形がい化してしまった。
世界中で個性による社会の混乱が収束しきっていない現状、個性をOKにした国際大会を開くにはまだ土壌が整っていない。

そのため、日本でオリンピックのように全国的に盛り上がるイベントというのは、エリート個性のぶつかり合いを見ることができる雄英体育祭となったのである。全国的な注目度はさることながら、当然プロヒーローたちも金の卵たちを見定めにやってくる。
ここで目立つことは、将来に直結する重要なチャンスなのだ。

トップヒーローを目指すなら、ここで勝たないわけにはいかない。


「開催早すぎだよね、5月頭とか…」

「いいじゃねぇか、時間をムダにしねぇで済む」

「もっとこう…一通り色々学んでからが普通でしょ」

「ここに普通を求めるのが普通じゃねぇだろ」

「…それはある」


そう、ここは天下の雄英高校。普通じゃないのが普通の学校なのだ。体育祭がこんな時期に行われろくに基礎も学びきっていないのに全国に生中継されることくらい当たり前となる。


「皆も盛り上がってたよね」

「そうなのか?見てなかった」

「あ、いつものやつ」


例によって周りを見ていない焦凍は、クラスの盛り上がりを気にも留めていないようだった。
A組は、早々に復帰した全身包帯状態の相澤に告げられた体育祭を大いに楽しみにしているようだった。卒業までの3回しかないチャンスのうちの最初の1回だ、皆張り切っていた。麗日はまったく麗かじゃなかったし、飯田も変な姿勢だったし、上鳴や切島は「うおおおお」とムダに叫んでいた。動物園か。


「…灯水」

「うん?」


鰤うめぇと思いながら麺を啜っていると、焦凍が話しかけてきた。視線だけ向けると、どこか深刻そうな顔をしている。いったん飲み込んで顔を上げると、視線で促した。


「…緑谷のこと、どう思う?」

「………、焦凍が何考えてるかは分かった」


脈絡もなく聞いてきたのは、緑谷についてだった。言葉通りに考えれば、ただのクラスメイトである。だが焦凍が聞いているのはそうではない。おそらく、オールマイトとの関係だ。
先ほどもちらりと話しているのが聞こえたが、飯田と麗日いわく、緑谷は今オールマイトと昼食をとっているらしい。教師と生徒、1対1で。

それに加えて、緑谷の個性。あの増強系の超パワーは、オールマイトによく似ていた。強すぎて体がボロボロになってしまうほどの力を、この年になっても使いきれていないことも気になった。

焦凍が言いたいのは、緑谷とオールマイトがどう関係しているのか、ということだ。その推測を聞こうとしている。


「言わんとしてることは分かったけど、それは本人のみぞ知ること。俺たちが推測したって意味ない。焦凍のことだから、オールマイトと何かしら接点がありなおかつ個性が酷似している緑谷を倒しておきたいって思ってるんだろうけど…」


焦凍は一切否定しない。灯水が言っていることが完全に焦凍の考えに一致しているのだ。これくらい、最も近い位置にいる灯水にはすぐ分かる。


「どうせ目指すは1番だ、違う?それなら緑谷が何だろうと関係ない、全員に勝てばいいだけ」

「…それもそうだな」


そう、緑谷が何だろうと、A組を含む全員を倒さないと1位にはなれない。どうせ一緒なのだ。
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