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□USJの試練/前編
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騒ぎのあった昼を終えて午後、3日目のヒーロー基礎学の時間になった。昨日はオールマイトによる対人戦闘訓練だったが、今日は何をやるのか。
クラスがじっと教卓に向かう相澤を見ていると、朝より少しやつれたようなテンションで相澤が話し始めた。大方、マスコミの対応に追われていたのだろう。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
なった、という言い方が少し気になったが、瀬呂が「何やるんですか!」と堪え性もなく聞いたため意識を戻す。
「災害水難なんでもござれ…人命救助(レスキュー)訓練だ」
相澤が懐から取り出した紙には、「Rescue」と書かれている。ヒーローの最も期待される仕事だ。実際、敵との戦闘よりも災害救助の方がはるかに需要が多く、人手も必要だ。
ざわつく生徒たちを相澤が一睨みして黙らせると、壁のロッカーがゆっくりと出てくる。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を制限するものもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
***
本校舎内の更衣室で着替えたA組の生徒たちは、校舎の裏側の出口から出てバスを待つ。灯水と焦凍は2人ともコスチュームで、他の生徒たちもほとんどがコスチュームを着ていた。単純に着たいというのもあるだろうし、そもそも個性をフォローしたり反動から身を守ったりするためのものだ、普通は着るだろう。
昨日の訓練で破損した緑谷が体操服であるくらいか。
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に並んでおこう!」
全員が集まったのを確認すると、委員長に就任したばかりの飯田が早速号令をかけていた。小学生かよと思わないでもないが、皆従って番号順に並ぼうとする。
だがその前にバスがやって来た。
「ほら乗れ」
相澤が指示すると、バスの車内の座席配列が番号順に関係のないものだったため、各自勝手に入った。焦凍と灯水は後方の2席1組になった座席が並ぶところで並んで座り、騒がしいメンバーは前方の横方向に長い座席が向かい合うところに固まった。
灯水たちの前には爆豪と耳郎がいる。
「ちょっと寝る。マジで寝てたら起こしてくれ」
「お、了解」
席につくなり焦凍は目を閉じた。寝るといっても、目を閉じてゆったりするだけだろうが、実は寝起きがあまりよくない焦凍は寝るときは本当に深く寝る。
いくら敷地が広いといえど、焦凍が本気で寝てしまうほど時間はかからないと思いたい。
バスが走り始めると、前方では個性の話で盛り上がっていた。緑谷の増強系の個性が強いという話や、切島が自身の個性を地味だと思っていることなどわいわいとしている。
プロとして、強さはもちろん派手さも人気商売という点では必要ではないかという流れになると、切島が後方座席を向いた。
「派手でつえぇっつったら、やっぱ轟兄弟と爆豪だな」
「ケッ」
話を振られた爆豪はそう吐き捨てて窓の方を向き、隣の耳郎は話に加わらないよう若干体を傾けて爆豪から離れる。
すると視線は自然と灯水に向かう。焦凍が寝ていることもあってなおさらだ。
「あの蒸気でぶわーってなるやつ、かっけーよな!」
「そうかな、俺はぶっちゃけ攻撃力は決め手に欠けるからなぁ」
「そんなことないよ!轟君、あ、灯水君の方の個性なら、いくらでも水を状態変化させられるわけだろ?攪乱させてスキを突いたり蒸気の高圧を利用して内側から何かを破壊することもできる、汎用性が高い上に強力だからやり方次第ではどんなタイプの戦闘でも圧倒的に…」
「こわぁ…」
突然ブツブツと語り始めた緑谷にドン引きする。思わず引いた声を出せば「ご、ごめん!つい癖で!」と謝って来た。前の爆豪の「クソナードが…」というつぶやきが聞こえて確かに、と思ってしまった。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
「ほら」
蛙吹の冷静な指摘に爆豪がキレる。蛙吹が言ったそばからキレるあたり爆豪も短絡的なところがあるようだ。
「この付き合いの浅さでクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーはなんだコラ殺すぞ!!!」
上鳴がにやりとして言った言葉は絶妙な表現で、キレる爆豪の後ろでこっそりと笑ってやった。