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□不穏
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翌日、若干の疲れを体に残しながら、灯水と焦凍は登校していた。焦凍の方は疲れたそぶりは見せていない。
「まだ3日しか経ってないとか…濃すぎでしょ…」
「そうか?雄英だしこんなもんだろ」
けろりとする焦凍に対して、灯水はこの2日間で今までとはまったく違う生活に少し動揺していた。雄英だから、というだけで納得できる。これが最高峰なのだ。
しかし、実際に体感するとここまでなのかと驚いてしまう。個性をフルで発揮する機会が続いているのもそうだし、何より周りの生徒たちが違う。皆、厳しい受験を勝ち抜いたエリートたちだ。レベルが桁違いだし、意欲も高い。
「自主的に反省会とかするくらいだもんなぁ、皆偉いよな」
「俺らには必要ねぇだろ」
そう、昨日の戦闘訓練のあと、A組は放課後に残って反省会をしていた。訓練の内容をもう一度振り返り、各自の気づきをもたらそうという試みのようだった。
群れるのが嫌いそうな爆豪はいなかったし、家の都合とやらで八百万もいなかった。そして、灯水たち双子もすぐに下校することを選んだ。
切島や上鳴は引き留めようとしてくれたが、焦凍は無言で帰ろうとしていたため、灯水も焦凍の分まで謝って帰ることにした。
「あいつ大勢と関わるの好きじゃなくて…ちょっと双子ならではのプレイしすぎちゃったし、またの機会に参加するね、ごめん!」ときっちり言葉は尽くした。色々な意味で個性的なA組だ、そういうヤツもいるだろうと切島たちも納得してくれた。
「んー、でもほら、ここは皆ヒーローになるわけじゃん?今後活動し始めたら現場で会うことも多いだろうし、トップ目指すならそういうコネクションも大事にするべきだと思うよ」
「関係ねぇ。実力でのし上がればいいだけだ。仲良しごっこしに来たわけじゃねぇんだ」
「…まぁ、それは焦凍しだいだし、焦凍がそう言うならいいけど」
中学までの有象無象の中でならそれでよかったが、ここは雄英ヒーロー科、少しは関係を保っていないと、今後の活動に支障をきたすかもしれない。灯水はそう考えているのだが、焦凍は誰の手も借りなければいいと思っていそうだった。
それが間違いだとも思わないのだが、難しいところだとは思う。氷の力だけでやっていけるほど、プロの世界は甘くない気がするからだ。
だが焦凍と同じくまだまだ子供の灯水には、説得させられるだけのものも持っていないのも事実である。
歩いていると、校門の前に人だかりができていた。人込みからはアーム式のマイクやカメラが見えていて、一目で報道陣だと分かる。
オールマイトの雄英就任というニュースが世間を騒がせているからか、インタビューを試みるメディアが押し寄せていた。
「うわぁ、めんどくさ」
「……」
焦凍は何も言わないが、いらだっているのが分かった。あの中に突っ込んでいくのは億劫だ。
「突っ込む?」
「それしかねぇだろ。行くぞ」
「了解」
2人は速足になると、報道陣の群れにいきなり突っ込んだ。押しのけるようにしてぐいぐいと進むと、気づいた者がマイクを向けようとしてくる。
「あの!オールマイトが教師をやるということで一言、」
「うるせぇ」
「ちょっ、」
焦凍はマイクを持った女性に一睨みする。びくりと震える女性に灯水は少し焦った。さすがに粗暴すぎる。
「あっ、すみませんこいつ今生理で!オールマイトはしっかり先生やってくれてて、とても学びになります!」
無難なことを言って笑顔を向けてから焦凍に追いつく。校門をくぐってしまえば、報道陣は入ってこれない。
中に入って人込みの圧迫感から解放されると、ふう、と一息ついた。
「何勝手なこと言ってんだ」
「いやぁ、お里が知れるって思われたらまずいし」
「俺らのお里はエンデヴァーだ、むしろ4K画面で知れ渡らせたいレベルのお里だろ」
「ひえぇ…圧倒的憎悪…」
冗談か本気か分からない焦凍の言葉に適当に返す。おそらく、ほとんど本気だ。