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□1年A組
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ガヤガヤと騒がしい大食堂。
吹き抜けの広い空間は、それでも全校生徒をまかなうには少し席が足りない。混み合っていてもここで食べたいと思うのは、ここがクックヒーロー・ランチラッシュが提供する一流の食堂だからだ。もちろん、価格は安価である。
ランチラッシュは「白米に落ち着くよね!」とよく言っているが、灯水と焦凍は揃ってそばを頼む。席を取って交替で買いに行く形をとっていて、先に焦凍がせいろそばを買ってきた。灯水はそのあとに温かいきつねそばで、天かすや薬味、温泉卵、七味、しょうが、みょうがなどをトッピングする。
トレーを持って席に着くと、焦凍は嫌そうな顔でこちらを見てきた。
「温かい上にごちゃごちゃ乗せやがって…それ別にそばでなくてもいいだろ、そばの味消えてる」
「分かってないよね。この脇役たちがそばの風味を引き立てるんじゃん。主役しかいない舞台なんてつまんないよ」
「話になんねぇな」
「ほんと、この高みに到達してないなんて下界の民は可哀想」
あったかくないそばが好きな焦凍は、いつもせいろそばをストレートに食べている。一方で、温かいものをトッピングマシマシで食べる灯水は、焦凍とはまったく考え方が合わない。こんな美味しいものが解せないなど可哀想に、と思いながらそばを啜る。おそらく焦凍もまったく同じことを思っているだろう。
ただこの会話もいつものことなので、すぐ話題は切り替わる。
「にしても、午前中の授業マジで普通だったね」
「つまんねぇわりに容赦ねぇスピードだったな」
今日から通常授業に入った雄英。A組では、午前中に普通の必須科目を扱い、午後にヒーロー基礎学を学ぶ。
英語の授業はプレゼントマイクだったが、こちらも普通に授業していた。しかし、たまに「おいeverybody hands up盛り上がれえええ!!」と叫んではシーンと静まり返るということを繰り返していた。
「一番前でプレゼントマイクの声量聞くの、結構つらいものがある」
「耳押さえてたもんな」
「いっそサイリウムでも持って行ってノる方がいいんじゃないかって思ったわ」
「今日みたいにあんまあからさまに反応すると指されるぞ」
「どんだけ見てんだよ…」
あたかも今日ずっと見ていたかのようなことを言ってくるものだから呆れると、「ずっと見てたぞ」と返された。とりあえず、テーブルの下で足を蹴った。
***
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!!」
午後、突然そんなでかい声が響いたと思うと、扉が勢いよく開いて大柄な男が入ってきた。金髪の筋骨隆々な大男。日本で最も人気のあるヒーロー。
「オールマイトだ!!」
「本当に先生やってんだ…!」
「画風が違う…!」
雄英高校からの合格通知にいたように、そしてマスコミにも騒がれていたように、オールマイトは今年度から雄英高校の教師になった。ヒーロー基礎学をやるらしい。
あの、憧れの。焦凍と2人で憧れたNo.1ヒーローに、俄然灯水のテンションも上がるというものだ。
「早速だが今日はこれ!戦闘訓練!!」
そう言って懐から取り出した紙には、「Battle」と書かれている。同時に、壁から機械音が鳴り始めた。
「そいつに伴ってこちら!入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた、コスチューム!!!着替えたらグラウンドβに集まるんだ!!」
灯水のすぐ近くの壁から出てきたのは、格納式のロッカーだ。そこには、出席番号が書かれたケースが入っていた。コスチュームが入っているものだ。
それぞれの個性を最大限発揮するため、個性届と要望に沿って学校が手配したサポート会社が作ってくれるものである。いよいよヒーローになるための勉強をするのだという気概が沸いてくる。
オールマイトの指示に元気よく答えたA組のメンバーは、次々とケースを持って更衣室へ向かう。
席の近さから最初にケースを取った灯水は、前の番号の焦凍のものも併せて取ってやり、近づいてくる焦凍に投げ渡す。
「うお、」
「焦凍はどんなのにした?」
「普通」
「まあ、そうだろうね」
「灯水は?」
「普通」
個性の自由度を高めるために、2人ともコスチュームに特にこだわりはない。焦凍については、人々から愛されるヒーローに、なんていうことを考えていないようなので、それもあって適当なのだろう。