hrak

□英雄の学び舎
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4月。
ついに国立雄英高校に入学する日がやって来た。2人の推薦入試での合格は炎司にとっては当たり前のことだったので、兄弟は喜んでくれたものの炎司は特にコメントはなかった。まったく欲しくはないのだが。

春らしい少し強い風に、桜の花びらが勢いよく散っていくような日。穏やかな陽気のわりに、年度初めのため町はどことなくあわただしい。
そんな中を、灯水と焦凍はグレーのブレザーに黒のスラックスという制服姿で歩いていた。シャツは白、ネクタイは赤で、ブレザーには襟や袖、肩に黒いラインが入っている。
駅に着いて電車に乗ると、ここからいくつか乗り継いで雄英に向かう。

中学と違い実家からそれなりに離れた高校へ通うため、電車に乗って向かうのは新鮮だ。入試や説明会で世話になっているルートなので、見慣れてこそいないものの間違えるようなことはない。


「朝は結構混むね」

「そうだな」


今までは少しずれた時間に電車に乗っていたからか、通勤ラッシュの時間に乗るのは初めてだ。東京ほどではないのだが、やはり圧迫感を感じる。
すると、するりと腰に手が回された。言うまでもなく、焦凍だ。その手に抱き寄せられ、焦凍に完全に密着する。鎖骨に鼻が当たる。


「焦凍…?」

「この方がマシだろ」

「んー…まぁ、そうかも。ありがと」


焦凍に密着した分、他の人とは距離ができる。見知らぬ他人に迫られる圧迫感より、よく知った焦凍の腕の中の方が窮屈に感じなかった。さらりとこういうことができてしまうのがイケメンだと思う。この優しさが他人に向けられることがないのが世の女性に申し訳なさを感じる。

長いこと電車に揺られると、ようやく雄英の最寄り駅に着く。海に面した小さな町の高台一帯に聳えるのが、ヒーロー科の最高峰である。
この町の面積の恐らく80%は雄英高校なのではないかというほど雄英高校は大きく、敷地面積はひとつの自治体分はある。演習場として都市の一区画が建設され、それがいくつもあるのだから当然だ。

駅から斜面を登っていくと、すぐに丘の上に本校舎が見える。4つのガラス張りのビルから成るクアトロタワー式の建物で、ヒーロー科の他に普通科、経営科、サポート科とすべての学科のクラスが入る。3学年で30クラス以上が存在しているという。


「それにしても、クラス別だと思った」


春の陽気と暖かな光を浴びながら、他の雄英生に交じっていると、クラスが一緒であることに感慨すら感じる。


「ヒーロー科はA組とB組しかねぇんだし、2分の1だろ」

「2分の1だったらなおさら別にしない?今年は定員より1人多いらしいし、あまりの1人はB組になると思った」


中学時代は双子ということで問答無用でクラスが別だった2人だが、今回は同じA組に配属された。推薦は例年4名、一般入試の定員は18名となっており、AB組ともに20人がクラスの定員だ。
それが今回、A組が21人で例年より1人多いらしい。


「まぁ、言われてみれば…完全にランダムだったのか、何なのか…」

「考えても仕方ないか、何にせよ焦凍と同じクラスになれて嬉しいし。1回同じクラスになってみたかったんだよね」

「俺も嬉しい」


ふ、と小さく笑う焦凍。双子の灯水でもレアに感じる笑顔だ。久しぶりに見ると破壊力が大きい。


「相変わらずイケメンだな?」

「灯水は可愛いな」

「そういうの!いらないって言ってんじゃん!」


高校に上がってもなお可愛いと抜かす焦凍に肘鉄を入れる。パシ、と受け止められて灯水は舌打ちをついた。
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