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□推薦入試
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中3の冬、ついに入試の日がやってきた。灯水と焦凍の2人は推薦をもらっているため、まずは推薦入試を受けることになる。たとえ落ちても一般入試を受けるつもりだが、恐らく2人とも推薦で合格できるだろう。
気温が寒くなり、徐々に入試ムードが高まるにつれて、焦凍の気が立っていった。さすがの焦凍も余裕とは思っていないらしく、失敗できない挑戦を前に鋭利な雰囲気を纏っている。


「悪い、集中したいから別行動でいいか?」

「了解」


雄英高校の最寄り駅に着くと、焦凍は低い声でそう言った。とても集中したいときによく焦凍はひとりになろうとするので、灯水には慣れたことだ。しかし、今日の焦凍はいつもと違う。本当に気が立っており、その目つきはとてもヒーローを目指す者のそれではない。心に余裕がないのだ。
炎司を否定するためのトップヒーローになるという目標のために雄英高校合格は必須条件である。その意識がそうさせているのだろう。



***



焦凍の受験番号は23番、灯水は24番である。前後に並んで筆記試験を受けることになり、焦凍の紅白の頭を前に見ながら鉛筆を持つ。推薦なのに筆記試験があるあたりが超上位校といった感じだ。
普通の必須科目に加え、小論文もある。持ち込みできないため、配られた不慣れな鉛筆を握る手が痛くなるほどの回答量だった。

それが終わると次は実技になる。
なぜか変に双子クオリティなのか、焦凍と灯水はいつも試験の総得点が一緒だ。科目ごとの点数は違うものの、総合得点は同じか、誤差5点以内である。おそらく今回もそういった同等の点数だろうし、きっとそれは合格点だ。


「実技は6名ずつの審査となる!番号呼ばれたヤツから試験場へ!」


筆記終了後、進行を務めるヒーロー・プレゼントマイクが手元の書類の番号を読み上げる。プレゼントマイクはラジオのパーソナリティーをやっていることもあり、少し受験にはそぐわないテンションではあるがきっちりと進行していた。
最初の組には焦凍も入っていた。何か声をかけようかとも思ったが、集中しているようだったし、そもそも室内が無音だったため声を出すのが憚られた。結局内心で応援するだけにして、鞄から取り出したフィンガーレスの手袋をはめた。
特殊合皮で作られた黒い手袋は、手のひらを蒸気による凍結から保護するためにつけるようにしている。指を出しているのは動かしやすさを重視してだ。

筆記試験の前から受験者は着替えさせられていたため、各々動きやすいジャージ姿である。上下黒いジャージに白いシャツを着た焦凍が会場に向かって見えなくなると、息をついて背もたれに深くもたれる。本番はここからだ。



それから5分ほどして、次の組が呼ばれた。そこには灯水も入っている。案内役に連れられて屋外に出ると、そこには遊園地のような光景が広がっていた。

ジェットコースターに始まり、長い階段に落とし穴、大きな岩の山にその山頂どうしを繋ぐ吊り橋やヨーロッパ風の城壁。
さらには、穴から炎が噴き出すところや滝、爆発が続く場所など、ゲームのダンジョン染みている部分もあった。盛大な障害物競争のようなものだ。他の受験者は「すげぇ…」と圧倒されている。

その会場の中を、前の組が走っている。どうやらコースを走る実技らしい。もちろん、走るだけでクリアできるようなコースではない。
4人はほぼほぼ同じペースで進んでいるが、抜きんでて速い2人が先頭にいた。片方は焦凍、もう片方は風を纏う大柄な少年だ。
焦凍は氷を次々を重ねて出現させることで前に進んでおり、どんな悪路や斜面、断崖でもスムーズに進んでいく。風の少年も、風に乗って地面の抵抗なく進むために障害があってないようなものだった。
そして最後の直線コース、ゴール直前に風の少年が焦凍より先に足をゴールラインに触れさせた。体躯の差といっていいだろう。


(なんか話して…るのか…?)


ゴールした風の少年は、身振り手振りを大げさにしながら焦凍に話しかけている。屈託のない笑顔だが、焦凍は相変わらず鋭い目つきのままだ。あれはだめかも、と思った瞬間、焦凍が何かを言って少年の顔が歪んだ。「なんだこいつ」という顔である。頭を抱えたくなったが、スタート位置に着くよう言われたため視線を外した。
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