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□双子の形
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通いなれた凝山中学校への通学路を、桜の花びらに吹かれながら2人は並んで歩く。時折、黒い学ランの肩に花びらがついて、手で軽く払う。花びらが舞いすぎるのも情緒がないというものだ。

この春に中学校3年生になった灯水と焦凍の双子は、まる2年間にわたり、常に一緒に過ごし、常に一緒に登下校する生活をしていた。一緒にいないのはそれぞれのクラスにいるときだけで、基本的にはセットだ。
二卵性ということもあり、よくどちらか兄か聞かれる。灯水は弟に間違えられるのだが、兄という立場を堅持しているつもりである。

それというのも、メキメキと成長した焦凍との身長差は、すでに10センチに達し、灯水の方が背が低い状態が続いているためである。
更に言えば、焦凍は父譲りの鋭い目つきのシャープな顔立ちなのに対して、灯水は母譲りの温厚な顔だちであることもある。灯水の方が友人には「甘いマスクのイケメン」と言ってもらえるが、とどのつまり焦凍より童顔なのである。というか、比べれば幼く見えるということだ。


「また健康診断の季節かぁ…身長検査滅びないかな」

「160後半にはなったんじゃねぇか?」

「そういう焦凍は170後半に差し掛かるでしょ、双子って肩書き仕事しろマジで」

「いい仕事しただろ。かわいい」

「てめぇ喧嘩売ってんのか」


どす、とそう軽くはない肘打ちを隣の焦凍にかますと、「お」とだけ発して受け止めた。
ふ、と笑む様は王子様しかりとしていて見目麗しい。何をどう間違ったのか、焦凍はすっかりどの過ぎたブラコンと化していた。



***



炎司に啖呵を切ってから、個性の混合に気づいて利用価値を認められた灯水は焦凍とともに修行に励むようになった。自分でやっていたことの何十倍もつらいことで、もともと未熟児で生まれてそう元気ではなかった灯水にはまさに苦行だった。
しかし、隣で炎司に憎悪の目を向け続けながら、文字通り血反吐を吐くような努力を続ける焦凍を見ていれば、諦めるなどという選択肢は浮かびすらしない。
「お母さんの力だけでトップになって、親父のことを全否定する」という焦凍の並々ならぬ決意を聞いたときも、頷くことしかしなかった。焦凍をひとりにしない、という目標はなんとか達成できたようで、それまで孤独に修行に耐えあまつさえ心の拠り所であった母と離れた焦凍にとって、一緒に修行をやると言った灯水は少しでも励ましになったようだった。

そうやって常日頃一緒に修行を受けていたからか、学校でも一緒にいるようになり、焦凍は目標に必要なことと灯水以外はどうでもいいというスタンスになっていった。

それが2人が常にセット扱いされる所以であり、更に焦凍が灯水にしか笑顔を見せず会話をしないことがそれを加速させた。
今や、「怖い方」が焦凍、「怖くない方」が灯水という風に分けられるほどだ。

しかし焦凍のそのような姿勢は良くない。無駄に敵を増やしてしまうし、ヒーローには協調性も必要だ。そこで、少しでも焦凍が孤立することを避けようと、灯水は焦凍の分まで社交的にふるまった。
あのエンデヴァーの息子ということで言い寄られることも多かったし、焦凍と灯水がイケメンと評されていることも人づてに聞いて把握している灯水は、寄ってくる人間たちに何の興味もなかった。それでも笑顔を見せて仲良しごっこをしたのは、ひとえに焦凍へ敵意が向かないようにするためだ。今更そこらへんのヤツに負けるような双子ではないが、推薦で雄英高校を目指す2人には障害が少ない方がいい。
「焦凍は騒がしいの得意じゃなくてさ、皆のこと嫌いとかじゃないから!ごめんね!」というのは灯水の口癖のようなフレーズだ。

そうした努力もあって、「社交的な方」と呼ばれるのが灯水、「社交的じゃない方」と呼ばれるのが焦凍という分け方もされることがある。
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