hrak

□”出来損ない”
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人それぞれ、苦しいと思うこと、つらいと感じること、悲しいと嘆くことは違う。人によってはまったく気にならないことでも、ある誰かにとっては人生を揺るがすようなことかもしれない。その価値観の相違によって、ときに人は自ら死を選ぶ。
だがしかし、得てして言えることがひとつだけある。
それは、「自分が変わらなければ何も変わらない」ということだ。どんなに理不尽で自分に非がないことでも、環境や状況は勝手に変わってくれるものではない。自分の願った通りに周りが勝手に変わることは、単なる奇跡に過ぎない。たとえどんな状況であっても、まずは自分が変わらなければ、何も変わらないのが当たり前なのだ。

ただ、その単なる奇跡に縋るしかないようなこともある。そういうときに、その人にとっての「奇跡」となれるような者。それが、その人にとっての「ヒーロー」なのかもしれない。



***


年明けのごたごたも落ち着いてくる真冬の厳しい寒さ。それが、灯水の生まれた日を端的に表現する言葉だろう。
1月11日、静岡県のある病院で、金持ちのためにあてがわれた贅沢な個室にて、灯水は生まれた。二卵性双生児の兄として、弟よりもわずかに早くこの世に生まれ落ちた。
それから少しして出てきたのが、弟の焦凍。2人分の泣き声が響く病室はしかし、淡々とした祝福だけの満ちた空虚な空間だった。

世界人口の8割が何らかの個性、いわゆる超能力のようなものを持っている超常社会。それが今の地球である。
個性に対して有効的な立法がいまだなされていない日本は、一時は法治国家としての体裁すら保てなくなりそうになったが、自主的に個性を使った犯罪を対処していた人々が現れた。いつしかそれはヒーローと呼ばれるようになり、そしてヒーローは国家公務員として認められ資格制になるまでになった。


そんなヒーローにも格付けがあって、その総合ランキングでNo.2ヒーローに輝く男をエンデヴァーという。本名は轟炎司、事件解決数ではトップに立つ男だ。
その炎司がNo.1になることを阻害するように、圧倒的な強さを誇るヒーローがいる。オールマイト、不安定な日本社会の精神的支柱、平和の象徴とまで呼ばれる男である。
炎司にとってこのオールマイトは目の上のたん瘤と言っても差し支えなく、もはや憎悪にも似た感情を向けていた。そうして炎司がたどり着いた結論は、自身の子にオールマイト打倒を行わせること。炎司の世代やその親の世代で社会問題になりつつあった、個性婚を利用したのである。

強大な氷の個性を持つ女性を半ば無理やり自身に嫁がせた炎司は、あいついで子供を成した。個性を持った両親のもとに生まれた子供は、そのどちらかを継ぐか、もしくは混ざった個性を持って生まれてくる。
しかし炎司の子供は、3人続けてどちらかの個性しか受け継がなかった。意に沿わない結婚の末に何人もの子供を産まされる妻に、人権などないと言っても良かったのかもしれない。

そしてついに生まれたのが、灯水と焦凍という双子だった。個性の発現は4歳ごろであるため、それまではどうなるか分からないまま2人は過ごす。兄や姉たちと一緒に遊ぶことも多かった。

思えば、純粋に幸せな家庭を感じられたのは、この頃までだった。炎司は家にいなかったが、母や兄弟たちが2人と遊んでくれたし、灯水は双子という不可分の存在である焦凍といつもくっついていた。たとえ二卵性といえど、この世で最も近しい存在なのだから、当たり前である。
大きな和風の邸宅は、2人にとってほぼ世界であったし、それは2人くらいの子供には十分すぎるほどの広さと刺激を与えてくれた。目に映るものすべてに、価値があるように見えていた。
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