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□林間合宿と動揺
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一時間後、バスが休憩所に止まった感覚で目が覚めた。何もない空き地に止まるバスを少し不思議に思いながらも、焦凍に促されてバスを出る。
山の斜面の中腹にあるここからは、広大な森林と山々が見えた。長野県のどこかということしか分からない。とりあえずこの広い視界の中に人の住む場所は見えなかった。
パーキングエリアの類ではないことに生徒たちも訝しみ、さらにB組のバスが見えないことも気になる。そんな生徒たちを置いて、相澤は2人の人影にぺこりと挨拶した。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」
突然そうやって生徒たちの前に姿を現したのは、猫の手をつけたコスチュームの女性2人。プロヒーロー・プッシーキャッツのうちに2人だ。
通称ワイプシと呼ばれる4人1チームのヒーロー集団で、山岳救助などを得意とするベテランだという(緑谷談)。
今来ているのは赤いボブヘアのマンダレイ、金髪をカールさせたピクシーボブという2人だそうだ。マンダレイは柵まで行くと、森林の奥にある山を指さす。
「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
何もないところに止まったバス、まだ遥か先のゴール、あえてここからその地点を告げるヒーロー。雄英に通って1学期が経過したA組には、これからどうなるのか何となく察しがつくというか、嫌な予感がし始めたのだろう、瀬呂や切島、芦戸がじわじわと後退し始めた。
「今はPM9:30…早ければ12時前後かしらん」
切島と先頭に何人かはバスへと向かい始める。灯水は空腹に気を取られてあまり聞いていなかったが、それに気づいた焦凍が肩を叩く。
「おい、ちゃんとしろ。ヤバそうだ」
「…えー…考えたくないけどお察し…」
焦凍の言葉に灯水も察した。もうこれは逃げられない。
「12時半までにたどり着けなかったキティはお昼抜きね」
その次の瞬間、足元の地面が勢いよく盛り上がった。ピクシーボブの個性である土の操作だ。生徒たちは土砂に包まれ、「安全に」崖から叩き落された。
落下する感覚に内蔵が置いて行かれるような気がするが、空腹によってそれすら気持ち悪さに変わる。個性によって体制を立て直すまでもなく、すぐに地面が見えてきた。
「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から3時間、自分の足で施設までおいでませ!この魔獣の森を抜けて!」
なんとか全員土から出て立ち上がる。漏れなくA組全員がここに落ちてきていた。すでに土砂で制服はボロボロだ。口の中に入った土を吐き出すと、気分の悪さが増す。
「大丈夫か?灯水」
「無理、腹減った」
それどころじゃないのだ。そう思っていると、突然瀬呂と上鳴の悲鳴が響いた。
「魔獣だーーー!!!」
その視線の先には、まるでティラノサウルスのような化け物がこちらを睨みつけていた。トイレに行きたそうにしていた峰田の動きが止まる。あれはまさか、と思ったがすぐに見ない振りをした。
「静まりなさい獣よ、下がるのです」
口田が個性によって操ろうとしたが化け物には効かない。あれは生物ではないようだ。見れば土でできている。
12時半までに到着できなければ昼食はないという。
「こちとら…朝飯抜いてんの…死活問題なんだよぉ…!!」
「…灯水、」
「焦凍、やるべきことは変わらん…ぶっ殺す!!」
「おい、爆豪みてぇになってんぞ」
そんな焦凍の言葉はもう聞こえない。2食抜くなど男子高校生には死刑に等しい。バッと蒸気によって飛び出て大量の水を手元に用意すると、その胴体に向かって鉄砲水のように撃ち出した。水圧によって胴体は穴が開き、そこを通って反対側へ。
同時に、爆豪が頭を爆破し、緑谷が胴体を殴って散らし、飯田が足を蹴り上げ、焦凍が他の足を凍らせながら突き抜けた。
避けられるものは避けていかないと後続へのボランティアになる。攻撃力に乏しい灯水は、機動力によってとにかく突き進むのがベストだ。
しかしそうは言っても、数が思ったよりも遥かに多い。避けられない戦闘が多く、どんどん時間が過ぎていった。