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□迷い―期末試験
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最終組、灯水はスタート位置となる演習場γの壁の上に立つ。この組には他に蛙吹、峰田、青山、八百万、そして爆豪がいる。
蛙吹や峰田、青山はそれぞれ跳躍型で移動するので地味に速いし、八百万はバイクなどを創造できる。何より爆豪は灯水と同じ飛行型で移動するため、この回はまさに死の組、めちゃくちゃ速い者が集まっている。

爆豪は確か数百メートル離れた隣からスタートだったな、と思っていると、オールマイトの救難信号が届く。レース開始だ。

灯水はいつもと同じように、蒸気によって空に舞い出ると、まっすぐオールマイトのところに飛ぶ。煙突や配管に当たらないようそれなりの高度を保って眼下にごちゃごちゃとした工業風景を見ていると、芸がないな、と自分でも思った。

そう、本当に「いつもと同じ」なのだ。蒸気による移動は推薦入試から変わらない方法で、体育祭もそうだったし路地裏でもそうだった。他の皆は、焦凍ですら成長して機動力を増しているのに、灯水は変わらない。体育祭で超臨界水を覚えたくらいだが、あれも限られた場面でしか使えない。


「邪魔だ!」



自分のあり方も、ヒーローという将来像も分からないまま、成長もせずだらだらと。結局のところ、自分は出来損ないを卒業できていないのか。
ぐるぐると思考が続く。


「邪魔だっつってんだろが!!」


すると突然、真横に人影が一瞬で迫り、ハッとする。腕に鋭い熱が走り、耳に爆音が響いた。


「いっ…!」

「く、そっ、ざけんなメッシュ野郎!!」


どうやら爆豪が接近していたらしい。煙突などを避けていた爆豪の軌道にいたのだろうが、爆豪の声に気づかず衝突しかけた。ぎりぎりで回避するも、腕に軽く爆豪の爆破が当たって火傷していた。
とりあえず凍らせながら、空中で体勢を整える爆豪に謝る。


「ごめん、ぼうっとしてた」

「はあ!?なら俺の前にいんじゃねぇアホ!!」

「それは聞けないわ」


集中しなければ。訓練中に考えに耽るなどあり得ない。灯水は頭を振ると、改めて蒸気を強く噴き出して飛び出した。後ろから「待てこの野郎!!」と叫ばれるが待つ義理はない。
爆破を連続させて推進力を得る爆豪と違い、灯水はコンスタントにそれを得られる。そこは速さを決定する上で大きな差になるのだ。

そうして、灯水は1番にオールマイトのいる建物の屋上にたどり着いた。次に爆豪がついて、さらに蛙吹が到着する。意外にも最後に着いたのは八百万だった。バイクで来たあと、階段で上って来たらしい。全員が揃っているのを見て落胆したように俯いた。


「お疲れさま!皆さすがの速さだな!この調子でどんどん機動力を伸ばしていこう!じゃ、解散!」


オールマイトは簡単にそう講評して終えた。これで全レースが終了したため、授業も終わる。


「てめぇメッシュ野郎、よくも邪魔してくれやがったな…!」

「わ、だからごめんて」


そこに爆豪がメンチを切って来た。ぶつかりそうになった挙句1番を取られたことにむかついているらしい。


「てめぇも半分野郎もマジでむかつくなぁ…!体育祭でも途中で勝手にぶっ倒れて終わりやがって、次こそてめぇをぶっ殺す!」

「…うん、そうだね。体育祭から、なんも変わってないわ」

「っ、くそっ!」


体育祭から何も変わりはない。迷いの中でぐるぐるとして、周りに取り残されているのだ。そしてそれは、爆豪にも通ずるところがあったらしい。吐き捨てると、爆豪はさっさと歩いていった。側でハラハラと見ていた八百万も、灯水の言葉を聞いて顔を曇らせた。


(悩んでるのは、俺だけじゃないのか)


どうやら悩みを抱えているのは、灯水だけではないらしい。爆豪も八百万も、ままならないことがあるのだろう。そう思うと、ほんのわずかに安心するような気がして、同時に、そんな自分に嫌気がさした。
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