hrak

□燃えろ体育祭/後編
2ページ/16ページ

緑谷もいなくなり、ようやく廊下は静かになる。そこで、爆豪が黙ったまま壁にもたれているのを思い出す。そういえば、爆豪にもすべて聞かれていた。


「あー…なんか、ごめん、身内の面倒な話聞かせちゃって」

「あ?…別に」


爆豪は特に暴言を吐くでもなく、短くそう返した。外の喧騒は遠くなっていて、すでに大半の生徒が昼食を取っているのだと分かった。


「ね、昼一緒に食べようよ。出店の焼きぞばとか買って。どうせ食堂激混みだよ」

「はあ?なんで俺がお前と」

「いいじゃん、もう時間ないしさ!ほらほら!」


1番になることにこだわる爆豪からすれば、まったく爆豪を見ていない焦凍の姿勢は気持ちのいいものではないはずだ。こいつの場合フォローなどはいらないとは思うが、ちょっと話してみたかった。なんだかんだ、本質を見ているタイプの男だと思うからだ。

爆豪はさっきの話の当事者でもある灯水だからか何のかは分からないが、渋々ながら付き合ってくれるらしい。一緒に本校舎の前の出店に行って、焼きぞばやたこ焼きなどを買うのについて来てくれた。ちなみに、そこにいた客が2人を見て「見てたぞ!すごい活躍だな!」とはやし立てて奢ってくれた。

そうやって昼飯を用意して、本校舎から離れた庭の1つにあるベンチに腰掛けた。辺りに人はいない。ここら辺は一般の客が入ってこれないため人気がなかった。


「あはは、デートみたいじゃんウケる」

「気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇ。1人で食うぞ」

「誰のコミュ力のおかげでただ飯にありつけると思ってんの?」


出店の前ではやし立てた客たちにうっとうしそうにしていた爆豪と違い、灯水は笑顔で「そう言ってもらえると嬉しいです!」と応対していたため、その高校生らしい可愛げに免じて奢ってくれたのだ。
その自覚はあるらしい爆豪は浮かせた腰を下ろし、なるべく灯水から離れた位置で箸を割って食べ始めた。

一緒に食べると言っても、特に共通の話題もない2人は黙々と食べる。先ほどの重い話もあって、口が進まないのもあった。
すると、意外にも爆豪が口を開いた。


「…俺には、お前らの家の事情なんざ関係ねぇ。倒すモンを倒すだけだ」


その言葉は、準備期間前から変わらない爆豪の見ている勝利の本質。実際その通りであるため、灯水は安心して笑えた。


「はは、うん、その通りだよ。焦凍が勝手に見返すって言って緑谷君を目の敵にしてるだけ。昔からあいつ、その目標以外眼中に入れてなかったからさ、今日の宣戦布告みたいに周りなんてお構いなし。その度に俺がフォロー入れてんの」

「これもフォローか?」

「君にはいらないでしょ?」

「フン…」


爆豪は鼻を鳴らしてたこ焼きを一口で放り込む。豪快ながら、育ちがいいのか食べ方はキレイだ。


「…焦凍がヒーローになるのは、右の氷の力だけでトップヒーローになって父さんを見返すため。俺はそんなあいつが、1人にならないように同じ道を行くことに決めたし、家族の皆が焦凍のことだけ考えて寄り添ってくれるような、そんな誰の救けもいらないヒーローになりたいって思った。オールマイトみたいなね。だから俺も、誰かに負けるつもりはない。最終的には俺も強くーーー」

「てめぇはそれでいいんかよ」


灯水の言葉をさえぎって、爆豪の少し強い言葉が落ちる。灯水は思わず黙って爆豪の方を見た。爆豪もこちらをじっと見ている。


「それでいいのかって…?」

「『お前は』それでいいのかって聞いてんだ」


爆豪の聞いていることが分からない。灯水がそうしたいとも思っているからここにいるのだ。誰かに強要された道ではない。


「俺は焦凍の双子の兄だよ?あいつのこと、物理的には無理でも精神的に守りたいって思ったからヒーロー科にいるんだ。俺がそうしたいって思ったんだから、それでいいじゃん?」

「……チッ、どいつもこいつも厄介なんだよ…」

「…?」

「…わかんねぇなら、別にいい。俺には関係ねぇからな」


爆豪はそう言うと立ち上がる。もう食べ終わっているようだ。先に戻るようで、特に一言もな爆豪は行ってしまった。結局何を意図していたのか、最後に何を言っていたのかは分からずじまいだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ