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□英雄の学び舎
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様々な個性を持つ人々に配慮して、雄英高校は完全バリアフリーが徹底されている。そのひとつである大きな扉をくぐると、天井の高い広い昇降口。天井は廊下も同じく高くなっていて、異形型の個性の人でも安心して通行できる。
上履に履き替えて廊下を進むとちらちらと視線をもらった。この視線には慣れている。焦凍は気づいていないようだが、これはいわゆるイケメンを見る目だ。灯水とて自分で自覚しているわけでもないのだが、こうも人にイケメンと言われていればさすがにそういう認識をされているのだと理解できる。そのたぐいの目線を今受けていた。こればかりはどの学校も一緒らしい。
登校時間、それも新入生は初めての、上級生も久しぶりの始業のものであるためか、ざわめきは大きい。その中をA組に向かうと、やはり大きな扉が並んでいた。
焦凍がA組の扉に手をかけると、いよいよ同じクラスなんだな、という実感が沸いてくる。少しだけ緊張していると、引き戸が滑らかに開いた。
途端に突き刺さる目線。少し早い時間とはいえ、クラス内には10人ほどがもう来ていた。皆席について待っている。全国から集まってくるだけあり、同じ中学というような者はいないようだ。
「あ、焦凍、黒板に席順ある」
「お、」
黒板、といってもチョークで書くものではなく電子式のものに、席順が表示されていた。名前順らしい。
「あー、そういう感じね」
「…、こういうこともあるか」
2人の出席番号は並んでいるのだが、ちょうど列の一番後ろと一番前に別れてしまった。
縦5人の横4列という席順にあって、焦凍は窓から2列目の一番後ろ、灯水は窓際列の一番前だ。
前の扉から入ったので、灯水はまっすぐ一番前の席へ、焦凍は一番後ろに向かう。机に鞄を下ろすと、その大きさに驚いた。普通の机より一回り大きく、椅子はキャスターつきの回転式。ビジネスデスクのようだ。
ちょうどいい反発の椅子に座ると、後ろから声をかけられた。女の子の声だ。
「おはよう!はじめまして!私、葉隠透っていうの、よろしくね!」
「お、はよう。俺は轟灯水、よろしく」
振り返ると、女子の制服が浮かんでいた。人がいるのは制服の形で分かるが、制服しか見えていない。透明人間の個性か。
「見ての通り、私透明人間なんだ!轟君は、ひょっとして双子?」
「そう。二卵性だから似てないけどね」
黒板に同じ苗字が並び、髪色も似ているからか、すぐに分かったようだ。葉隠は見えないながらも、なんとなく快活な印象を受ける。
「そうなんだ!いいね!兄弟で同じクラスって憧れるなぁ、楽しそうだもん」
「俺も今回初めて同じクラスだから不思議な感じするよ」
「じゃあ、名字被っちゃうから灯水君って呼ぶね!」
「おっけー、ありがと」
裏表のなさそうな葉隠はとても好印象だった。やはり雄英だけあり、こちらを変に意識するようなことはない。あくまで対等に見ている。中学では、2人が突出しすぎていたのかもしれない。
そこへ、再び扉が開く。入って来たのは、ネクタイをせずシャツのボタンを大きく開けた男子。ガラの悪そうな、言ってしまえば不良だ。
男子はちらりと黒板を見ると、葉隠の後ろに座った。席順を見る限り、爆豪という生徒である。そして座るなり、足を机に行儀悪く掛けた。
もう大方生徒が集まっている頃合いでもあるため、教室中が爆豪の粗暴な態度に注目する。そんな爆豪のところに、廊下側の席からつかつかと歩いてくる長身の男子がいた。
「君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!!」
メガネの真面目そうな男子に対して爆豪はメンチを切る。完全に不良だ。
「ぼ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明〜〜?くそエリートじゃねぇかぶっ殺し甲斐がありそうだなぁ!?」
「なっ、ひどいな君、本当にヒーロー志望か!?」
名門中学校出身だけあって、飯田という生徒はとても育ちが良く真面目なのだとすぐ分かる。だが手の動きが機械のようで少し不思議である。
飯田は不良への小言をやめ、新たに教室に入って来た男子のところへ向かった。