hrak

□推薦入試
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「では次の組、開始する。位置について」


スタートラインに立ち、灯水は肩を軽く上げてリラックスする。体に変に力が入っているとバランスを取れない。
コースは全長3キロ、外れさえしなければいくらでも個性使用可能である。灯水は3キロを普通に走るとだいたい15分切るかどうかというほどで、そう早い方ではない。だが個性を使用すれば、焦凍が4,5分ほどでゴールしていたように、恐らく灯水も5分で走破できる。そして5分は蒸気を連続で出せる最大継続時間でもあった。

前方のランプが3つ光っている。それが順に消えていきカウントが始まった。
受験生どうしの妨害行為などはないようなので、蒸気によって常に前方の障害を意識しながら進めば走らずにゴールできるだろう。

そしてランプがすべて消え、同時にすべてが赤く光る。スタートだ。
瞬間、灯水は両足の裏から勢いよく蒸気を噴き出して前方へ飛び出した。前傾姿勢を取ることで、地面に蒸気を噴射して浮力と推進力を同時に得ている。左手からも蒸気を出して、体のバランスを取り体の高度を維持する。

まずはカーブしながら続く普通のコンクリートの道を進んでいく。すでに後ろはかなり引き離し、灯水ひとりだ。矢印が定間隔で書かれているため迷うことなく進める。
道の先には円柱がいくつか並び、その向こうに大きな階段が続いていた。階段の先は爆発がひっきりなしに起こる道があり、その向こうは大きな岩場になっている。
爆発ゾーンを抜けるまでは視界に収まっており、すべて飛んでいれば楽だ。

円柱には触れることなく飛び越え、階段も着地せずに上っていく。爆発ゾーンは簡単にすっ飛ばし岩場に着くと、下る道が指示されていた。その先はおそらくスタートから見えていたロッククライミングのようなところなので、このまま一っ跳びでいいだろう。
斜面を下りていくと案の定、些末な足場が点在する断崖がありその上に矢印が伸びている。少し力を込めて一気に蒸気を噴射すると、ロケットのように真上へと飛び上がった。途中で何度か噴出を繰り返すことでさらに上昇していく。

頂上に着くと、そこから隣の岩山へ吊り橋が伸び、その岩場からさらに隣に吊り橋が続いていた。そこから今度は梯子で岩を下りられるようだ。
橋に足を触れずに飛ぶと、反対側の岩山を蹴ってもうひとつの橋の上を飛び越える。最後の山に着くと蒸気を止め、自由落下を始めた。落ちながら少しだけ足や手の凍った部分を溶かすと、地面が迫り蒸気を噴き出した。
地面に叩きつけられるようなことはなく、むしろ着地の反動で順路へと飛び出した。岩と木々が道の両脇に並ぶ武骨な道を進んでいくと、今度は崖に沿って道が続いている。片側は岩壁、もう片側は手すりだけあって、その向こうは敷地全体を覆う池の水面が遠く光っていた。
その岩壁からはマットが先端についたアームがランダムに飛び出しており、当たれば池に叩き落される。


「面倒くさ…」


ひとつ呟くと、灯水はいったん止まって壁に手を当てる。そこから一気に氷が出現し、壁を覆っていった。すぐに氷がひび割れるバキバキという音が聞こえ始め、急いで蒸気を出して道を抜ける。そのすぐ後ろから氷が破壊されアームが飛び出していた。これなら他の受験者の助けになるようなこともないだろう。

その道を抜けると洞窟に入り、水音が響く暗闇を進む。壁に心もとなく設置された松明の炎だけが光源だ。そちらに手を伸ばすと炎が大きく揺らめく。炎を操るのだ。
炎の量そのものを増減させることはできないため、炎を一気に洞窟内に散らして一瞬の照らされた光景を目に焼き付ける。

それで進路を確認すると、記憶の距離感を頼りに暗闇に向かって飛び出した。
予想通り、進路となっていた道に出て、その先の光の指す方へ登っていく。この先は大きな水音がするため、スタートから見えていた滝だろう。一気に突き抜けて、その先の道に着地しなければならない。

壁に向かって蒸気を勢いよく噴出すると、体は思い切り宙に投げ出され、そして明るい空間に出た。すぐ目の前に迫る滝。上半身が滝を突き抜けてもぎりぎりまで蒸気を出し続け、足が滝を抜ける直前に蒸気を止めた。頭は上からの衝撃とともに滝を出て、池の水面に向かって落下を始める。滝の圧力によって体は大きく傾いて落ちているが、滝から完全に出た時点でもう一度蒸気を噴射した。
なんとか岩でできた道に着地すると、素早くルートを確認する。

この先は凍った道に落とし穴が並ぶ場所と穴から炎が噴き出す場所が続く。さらにその先はジェットコースターだ。飛んでしまう方が速い。
灯水は浮き上がるのに使った出力を維持して蒸気を出し続け、一気に道の上を通過した。そして矢印が描かれたジェットコースターにたどり着くと、鉄骨の上を外れないように蒸気で駆けあがっていく。途中に客車が障害物のように配置してある。さすがに稼働させてはいなかった。
頂点まで上ると、そこからは下降に入る。ジェットコースターの終点から平坦な道が最後に続き、ゴールラインが見えていた。


「いっけぇ…!」


これが最後の加速だ。痛みの走る足や手に耐えながら、鉄骨を、そしてアスファルトの道を抜ける。
そしてようやく、ゴールラインを飛び越えた。
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