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□双子の形
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クラス替えにより、新しいメンバーとなった3年生。ホームルームでの自己紹介という儀式も済ませ、一通り連絡なども終わったところで一足早く終わりとなる。どうやら今年度のクラスは早くホームルームが終わるタイプの担任らしい。
他のクラスが終わっていないこともあって、終わるなりクラス内で親睦を深めようとがやがやと騒がしくなる。
「轟君!初めて同じクラスだね、私…」
「轟!同じクラスになんの1年以来だな!」
そして、一気に灯水の周りには人が集まった。聞いてもいないのに名乗る女子、記憶に薄い1年生のときの級友だったという男子、色々な奴が来る。名前を瞬時に記憶していき、さも楽し気に話す。
(うーん、一緒にいて価値ある人たちじゃないなぁ。俺に価値あると思って来てるヤツの目してる。はぁ、帰りたい)
内心でそんなことを思っているとはつゆ知らず、周りの生徒たちはどんどん増えていく。いつの間にか、灯水を中心とした8人ほどの塊になっていた。
その周りからこちらに向けられるのは、羨望。灯水にではなく、固まる生徒たちへのだ。自然な会話が成立するサークルの成立によって、何となくこれ以降はこの8人が教室のヒエラルキートップのグループになるからだろう。灯水をリーダーに、集まることを許された者たち、とでも言おうか。現に、灯水の周りに立つ者たちはまるで勝利したかのように誇らしげだ。
他の家庭より複雑に力学が働く家庭にいたからか、灯水は人の機敏にかなり聡くなっていた。人間観察が趣味、というわけではないが、灯水に、引いては焦凍に近づこうという者たちがどのようなスタンスかを見極めていた。それで特段何かをしたかというとそうでもないが、便利な特技だとは思う。
(最初から俺たち双子を上位存在だと思ってる。自ら自分を俺たちより下だと思ってる。自分で自分に価値をつけられない人間は、俺たちにとっても価値はない…)
せっかく個性社会の到来によって、老若男女が関係なくなり、男らしさ、女らしさというようなものはなくなったのに。やっと日本は真に「個」が評価される時代になったというのに。なぜ無意味な相対評価をして未来を諦めるのか。
”出来損ない”と親に蔑まれた灯水が、他ならぬ自分に賭けて、自分を信じて努力を重ねて、ここまで評価されるようになった。炎司も焦凍も母も関係ない、轟灯水としてだ。誰も灯水を見ていなかったから当然かもしれないし、灯水自身、焦凍に皆が注力できるよう自分が家族の手を煩わせないようになると目標を定めたこともあるだろう。しかし、何であれ自分に価値を持たせられるのは自分だけなのだ。
それを放棄したこの級友たちに、灯水にとっての価値もなかった。
「そういえばさ、轟君、いつも双子で一緒にいるよね!」
「…うん、そうだね」
考えていたことを心の奥にしまって、嬉しそうにする女子に目を向ける。
「イケメン2人並ぶと絵になるよねぇ…!」
「ほんとだよね!2人とも優秀だし!」
「マジそれ!お前ら揃って雄英受けんの?」
テンションを上げる女子に他の女子も同意する。それに男子が重ねて尋ねてきた。
「まぁね。学校から推薦もらえそうだし」
「さすがだな!」
雄英を推薦で受けると聞いて、周りの生徒たちが盛り上がる。まるでヨイショするようであまり愉快ではない。
国立雄英高校、そのヒーロー科は全国トップクラスのレベルを誇り、偏差値79を超すまさにヒーローの最高学府である。だが、それはあくまで通過点。焦凍とトップヒーローになるための、単なるイニシエーションだ。
そこへ、ガラリと扉の開く音がする。教室の視線が一斉にそちらへ向くが、開けた主はまったくそれを気にせず、まっすぐこちらを見据えた。
「終わった。帰ろう」
「了解。んじゃ、みんなまた明日ね!これからよろしく!!」
にこりと笑顔をクラス全体に向けてから、灯水は焦凍のところに合流する。引き止めたそうな雰囲気は華麗にスルーした。