青エク

□学園祭と"そのとき"
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翌日、日曜日ということで、この日は燐が遊びに来ることになっていた。この前後醍院のところに目薬を渡すために訪れた際、中を見てみたいと思ったのだそうだ。
結局あのあと、後醍院は目薬を使わずにしばらく過ごすことにしたらしい。燐のことも受け入れられたらしく、燐の直向きな優しさが彼を動かしたのだと思う。

そうして燐がやって来ることになったのだが、朝祇たちの部屋は正直この新館の参考にはならない。本来、新館は二人一部屋となっており、さすがに寝室は分かれておらず、大きな本棚によってベッドが区切られている。しかし、学園として特別待遇しなければならないような大金持ちなどのために用意されたフロアがあり、4人で1つの部屋を使う朝祇たちに宛がわれたのは1人につき1つの寝室がつき、共有スペースのリビングやキッチンまでついた特別な部屋だった。
それというのも、廉造がスパイをやる際にメフィストに交渉したからに他ならない。

そのスパイの件を聞いてセンシティブな気分になったのはつい昨晩のことで、朝祇は吹っ切ることができたわけではない。だが、薄々感付いていたこともあって、こうして皆で過ごしているときには気にしないでいられた。


「いーなぁ、お前らの寮めっちゃ綺麗だなー」


リビングのソファーにどかりと腰掛けた燐に、子猫丸は苦笑して「せやね、初めて来たときはびっくりしたわ」と返した。そのソファーとテーブルを挟んで向かいに朝祇が座り、廉造が肘掛けに膝をかけて横になる。廉造はエロ本を楽しげに読んでいた。


「なんか淹れるか。奥村何飲む?」

「お構い無く、何あんの?」

「お構い無くの意味分かってんのかよ…紅茶か紅茶」

「一ノ瀬も何で聞いたんだよ」


うるせえ、と奥村を小突いてから、朝祇はキッチンへ向かう。紅茶の気分だから紅茶なのは確定している。ついでにカントリーマ○ムでも温めようとレンジを開けると、なぜかタオルが入っていた。


「え、なんかタオル入ってんだけど」

「あ、それ僕のや、堪忍」


どうやら子猫丸だったらしい。小走りで取りに来た子猫丸に渡してやると、燐が怪訝な顔をした。


「子猫丸タオル食うの?」

「ちゃうよ奥村君…目ぇ疲れとるさかい、あっためよ思て」

「子猫丸ずっとパソコンしてるもんな」


リプ○ンの紅茶を淹れながら言うと、燐が興味を持ったのか、「エロ動画か!?」と聞いていた。バカだ。


「志摩さんやないんやし…」

「…ちょお俺!?俺は紙媒体派ですぅ〜!!」

「へえ。僕は最近、悪魔ごとの戦闘データの分類しとるんや!」


子猫丸は非常に薄味の反応だけ返し、燐に至っては完全に無視だ。拗ねる廉造の前に紅茶を置いてやり、燐たちの前にも置いていく。


「正十字騎士團でここ100年の戦闘データを貸し出しとるんやけど、それを自分用にまとめとるんや。…ありがとぉ、一ノ瀬君」

「さんきゅ一ノ瀬!」


廉造は熱そうに紅茶を啜り、礼を言って再び横になる。その隣で座ると、温めたカントリー○アムの美味しさに舌鼓を打つ。この一手間が違うのだ。
そこで廉造は何やら思い出したのか、雑誌を置いて自室に向かった。

子猫丸は燐への説明を続ける。


「この間の擬態霊との戦いで、僕には情報分析が向いとるて分かったさかい、これからは詠唱騎士の称号取ってても戦闘には参謀役として参加できてらて思うてんねや」

「そっかぁー。まったく分かんねーけどすげーな!!俺みたいのいるから詳しいやついれば絶対重宝されるよ!」


しかし結局、燐は分からなかったようだ。バラエティーならずっこけていた。


「…それにしても、志摩さんはどうしはるつもりなんやろ…確実に詠唱騎士向いてへんのに」

「まぁ…そればっかりはあいつが決めることだしな」


朝祇は紅茶を飲みながら、その答えを知っていることに少しの罪悪感と、昨晩のフラッシュバックを覚える。ともすれば暗い気持ちになりそうだ。


「分かっとるつもりやねんけど…悔しくて…!あの人才能あるくせに持ち腐らしてはるから…」


そこへ、スマホを手にした廉造が戻ってきた。取りに行っていたようだ。ぽん、と朝祇の頭に手を置いて、ソファーの後ろから抱き締めてくる。さりげない仕草に泣きたくなるのと同時に、しっかりしなければ、とも思う。


「そういえば二人とも、もうすぐ学園祭やん?もう決まったん?」

「あー…まだや。すっかり忘れとった」

「そーじゃん!学園祭じゃん!D組何やんだろ!?」


失念していたらしい子猫丸と燐が盛り上がるのを前に、朝祇は顔を隠すように紅茶を飲んだ。
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