黒子のバスケ
□最近、変わったこと
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毎日が積み重なって、それは確かなものとなっていく。
それに対して僕らは何も気付かない。
きっと全てが終わってから全てを知る。だから今はまだ気付けなくても、ゆっくりと進んでいければいい。
最近、変わったこと
インターハイ予選に敗れた後、みんな個々で涙を流した。
それは高尾和成も同様で、未だに練習が身に入らないほどの衝撃だった。
中学の時も負けたことはある。やっぱり負けるのは悔しいし、涙だって流れる。でも去年までなら泣くだけで、すぐに練習へと打ち込めた。
だが今回は違う。
胸の中を罪悪感のようなものがうごめいている。
王者と呼ばれる秀徳高校バスケ部で、高尾は一年でスタメンとして選ばれた。
緑間真太郎も同じく一年のスタメンであるが、彼には『キセキの世代』という肩書きがあるので誰もが納得していた。
でも高尾は違う。肩書きなどない普通のバスケ部員。そんな彼がスタメンとして選ばれた。
スタメンと決まった時は素直に嬉しかった。これでライバル視していた緑間と、同じではないが、近いラインに立てたと思って――。
しかし蓋を開ければ、今回の試合。黒子のマークを最後まで出来なかった高尾のせいで負けた。
もし最後まで彼の存在を追えていたら勝てたはず。つまり敗因はここにあった。他にもあるだろうが、それでも高尾が思う一番の敗因は自らの力不足としか言えなかった。
そして、王者・秀徳高校が予選で負けるという不名誉な現実を引き寄せてしまったのだ。
全力だった。けれども結果が出なければ、どんな言葉を並べても言い訳にしかならない。
今回の試合結果により、スタメンを夢見て、日々練習に励む中の一部の上級生からはよりいっそう厳しい目で見られるようになってしまった。
まあ全ては自分自身が悪いのだが……。
曇っていく心。それを高尾はかき消そうと頭を左右に振った。
過ぎた時間は戻らない。ついてしまった結果も消せない。ならば今自分がすべきことは今まで以上の努力。それ以外には何もない。
周囲の目も気になるが、今はとにかく練習しなければならない。
高尾は手にしていたボールをゴールへと投げ入れる。しかしボールはリングに弾かれてしまい、ネットをくぐることなく床へと落ちた。
「あ、やべっ……」
思わず高尾が言葉をもらすと、近くにいる二年の先輩達が口を開いた。
「外すなよー、高尾。オマエ、スタメンだろー」
小馬鹿にするような物言い。高尾は怒りと悲しみの合わさった情を感じつつも、彼らに向けて明るく返した。
「すいませーん。次は絶対入れるんで」
最近はずっとこんな感じだ。
何かと高尾が失敗するたびに、数名の先輩が野次を飛ばす。まあ物理的にいじめられているわけでもなければ、死などといった罪言葉を言われているわけでもない。だからこそ、周囲も流しているのだろう。また高尾が明るく返すのも、周りが気に留めない理由の一つに入るのだろう。
こぼれそうになる溜息をこらえて、高尾はまたボールを手に取った。そしてもう一度、ゴール目がけてシュートするが入らない。先程と同じ結果だ。
「入ってねぇー。二回連続外すなよー、高尾。さっきの『絶対』はどこいったんだー」
「しっかりしてくれよー。うちのスタメンがマークなしでシュート外すとか、マジねぇんだけどー。敗因はやっぱり高尾かぁ?」
「あれー、おかしいなあ。オレ、今日不調ッスわー。顔洗って気合い入れてくるッス」
高尾はいつもの調子で野次に返答すると、彼らから目をそらした。
今日は進路についての何かがあるらしく三年は遅く、その上、緑間は担任の手伝いをしている。それ故、今ここには緑間を除く一年と二年しかいない。それ故か、今日の野次はいつも以上に多い。
今の状況は正直、高尾にとって四面楚歌といっても過言でない。
(マジ、やりにくい……)
高尾は側頭部の髪を掻き上げながら体育館を出た。
その瞬間に目へと飛び込んでくる空。それはあまりにも綺麗に晴れていて、これから夏が来ることを伝えている。
夏――もし予選で勝っていれば、夏はインターハイだった。でもそれはもう過ぎてしまったこと。一・二年はともかく、三年はもうインターハイに参加することはないのだ。
負けてしまったのだから。