黒子のバスケ
□『好む』ということ
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それは賑やかで、でも嫌いになれなくて。
きっと世間ではそれを「好む」というのだろう。
『好む』ということ
それは突然だった。
夏休み期間の部活はいつもよりもバスケットボールと触れ合う時間が長く、周囲はすでにお疲れモードで帰路へとついている。
そんな中、緑間真太郎は彼らに目を向けることなく、居残り練習をしていた。
夏休み期間であろうが、暑さで汗が流れ落ちようが関係ない。人事を尽くすためのものに、そんなことを考える暇はない。
そんなことを脳の片隅で思いつつ、緑間はボールをゴールネットにくぐらせていると、背後から勢いよく何かが衝突した。
背中への強襲に緑間は倒れそうになるも、日頃鍛えに鍛えた筋力でその場へと止まった。
それと同時に、背後の人物は背を包む衣服をキュッと掴み、ポテッと頭を緑間の背へ預ける。
一体、何なのだ。緑間はムッとした表情のまま、一言口にする。
「何なのだよ、高尾」
怒り混じりに緑間は言うと、首だけを振り向かせた。
「あ、れー? オレってバレちゃった」
お気楽な声をあげる高尾和成。緑間は彼に向かい、大きな溜息をつくと、先程と同様の質問をまた投げかけた。
すると高尾は笑いながら、それに答える。
「えー? 女の子とのイチャドキイベントのない真ちゃんに、『ま、まさかオレの後ろに女の子の姿がっ!』の胸ドキイベントをあげようかなぁって」
「違う意味でドキッとしそうなイベント名なのだよ……。そもそも、他人の背中に激痛を与えて、トキメキをあげるという女子はいないのだよ」
いや、もしかしたらいるかもしれないが、どちらにせよ、そんなことをされても緑間は喜ばない。
緑間は再度、溜息をついて、高尾との会話を続ける。
「くだらないことを言いに来たなら帰るのだよ。オレはシュート練習に全力を尽くしている、邪魔をするな」
「いやぁ、それは知ってるぜ。見りゃ分かるし」
「分かるなら、すぐさま離れるのだよ。これでは練習にならない」
それもそのはず。背中にぴったりと頬を近付け、服を掴んでいる高尾。
これではシュート態勢に入ることすら不可能である。
振り払ってしまおうかとも緑間は考えるが、この男もそれなりに体力があるため、そっとやちょっとでは動かないだろう。
ただでさえ暑くて体力を消耗しているというのに、この男をかまえば、また体力が削られて十分なシュート練習ができなくなる。
緑間は暑い中、べったりとしてくる高尾を睨み付けながら彼の言葉を待った。
「もう真ちゃん、怒りなさんなって。今日はお誘いにきたんだからさ」
「……お誘い?」
「そ。宮地さん達が“スタメン同士で親睦深めようぜってことで、夏祭り!”的な?」
「全く意味が分からないのだよ」
「だーかーらー! とにかく、みんなで夏祭り行くぞってこと。んなことも分からねーのかよ、真ちゃん」
「言葉の意味は分かっているのだよ、馬鹿にするな。オレが聞きたいのは何故、そのような流れになったのかってことなのだよ」
「あー、そういうこと」と高尾は納得したような返事をすると、数分前のことを思い起こした。
数分前――。練習が終わると同時に、体育館を出ていくチームメイトにまぎれ、高尾も共に外へと出た。
どうせ今日も緑間が居残り練習をするのは理解済みだったので、とりあえず外の水道で顔を洗い、リフレッシュしてから居残り練習をしようと考えていた。
そんな時、高尾は三年のスタメン達と対峙した。
そして意外にも提案をしてきたのは宮地清志だった。
「高尾、今日の祭りあるだろ」
「祭り? あー……、彼女のいないヤツらがリア充見て落ち込むイベッスか」
しらっと高尾が述べると、宮地の隣にいた木村信介が苦笑しながら「確かにな」と同意した。
その様子を見つめながら、高尾はまだ水滴のついた顔をタオルへと押し付けると、その傍らにいた大坪泰介が口を開く。