カオス

□キセキ店、その3。
1ページ/2ページ


 別日。

 今日は緑間、青峰、紫原がシフトに入っていたが、急遽赤司も入ることになった。

 前回、売り上げ目標を達成することが出来なかった三人。

 どのようにしているのか見たいとのことらしい。


「緑間。青峰と紫原は何時入りだったかな?」

「青峰が12時30分、紫原が15時だ」

「そうか……今、12時40分だな」


 赤司は時計を見ながら言う。その手は鋏へと伸びている。

 その手を緑間は制御した。


「落ち着け、お客様がおられる」


 一応それで止まったが、マイペースで横暴な奴は間が悪くやって来た。


「おーす。お疲れー」


 青峰は欠伸をしながらそう言う。まだ赤司の存在に気付いていないようだ。


「遅刻なのだよ」

「悪ぃ、悪ぃ。寝てた」


 緑間はため息を吐く。

 叱りたいがお客様もいる。グッと堪えることにした。

 しかし、横はそうも行かないみたいで制御したはずの鋏を持っている。

 シャキ、という音と共に刃が開いた。

 そしてやっと、青峰も気付いた。


「赤司っ! 何でテメーいんだよ!」

「ん?」

「……遅刻してすみませんでした」


 何か圧力を感じたのか、すぐ頭を下げる青峰。

 そして、そんな様子を目撃して腹を抱える間の悪い――ある意味良い――男がもう一人。


「ブホォッ! ……青峰が頭下げてる……謝ってる。マジかよ、初めて見たわ」


 高尾和成だ。彼は昨日発注されたものを納品しに来たのだ。

 それと青峰の謝罪が被り、高尾に目撃されることになった。


「高尾か。ブツは揃っているか」

「ブツって……真ちゃんマジ止めて……オレの腹筋崩壊する……」


 楽しそうに笑いながら高尾は段ボールをカウンターに乗せる。


「ほい、ちゃんと届けたぜ。じゃあな」


 いつもならここで少し雑談して帰るのだが、今日は足早に店を出る高尾。

 どうやら今日はいつも以上の注文で忙しく、宮地さんの苛々が酷いらしい。

 遅いといつも以上にどやされるという。

 いつも叱られているのか……緑間は宮地の顔を思い出して、身震いをした。

 店内では珍しく数人の男子が物を見て騒いでいる。


「さて、青峰への罰はどうするかな?」


 穏やかな笑みでそういう赤司だが、その手の鋏は開いたままだ。
 青峰は息を飲む。


「そうだ。青峰、お前一人のノルマを課せよう。3万だ。ちなみに、お前がレジを打たなければ意味無いからな」

「……マジかよ」

「3万なんて優しいと思うが? バックを3つ売れば早いだろ?」


 赤司は微笑んだ。簡単に言ってくれる。


「あのー、すみません」


 青峰への罰について話していると、よく知った声に話しかけられて三人は疑問符を浮かべる。

 さっき帰ったはずの者の声がするのだ。

 この人物に対して反応するのはやはり、この人物。


「なんなのだよ」


 緑間は振り返りながら言い、高尾と呼び掛けて止めた。

 何故ならそこにいたのは高尾ではなかったからだ。


「失礼致しました。どうなさいましたか?」


 緑間はすぐさま対応モードに入った。

 それにしても高尾と声がよくにているこの男。

 緑間や青峰よりは身長が低いが、良い体つきをしている。

 きっと何かスポーツをしているのであろう。筋肉の付き方が違うため、バスケではないと思うが。


「このエプロンの色はこれだけですか?」


 物腰が柔らかい上、八の字をした眉が体格のわりに優しい印象を与える。


「そうですね。こちらに出ている分だけになります」


 緑間がそう伝えると一つお礼を言って、後ろにいた数人に声をかける。


「やっぱ、これだけだって。どうする?」

「じゃあ、僕、この色が良いなー!」


 明るい髪色にくりくりとした大きな目が印象的な男が一つの色を指して言った。

 その一言ですぐに決定したらしく、再びレジのもとにやって来た。


「これでお願いします」


 最初の男が会計をしていると、先程の可愛らしい男もやってきて紙を緑間達に差し出した。

 書いてあるのは喫茶店がオープンしますということだ。


「僕達、喫茶店するんだ! その名も喫茶Free! ぜひ来てね!」


 ウインクを一つして微笑んだ。

 そのあざとさはうちの黄瀬にも負けてない、そう思ってしまった三人がいた。


「ありがとうございました」


 男たちを見送ったあと、赤司は喫茶店の紙を見る。

 ここからとても近い距離にあるお店の様だ。


「みんなで行ってみるのもいいかもしれないな」


 赤司はそう言って、接客に向かった。





END

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ