カオス

□キセキ店、開店いたします。
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 朝から慌ただしく店内の準備が進められる。

 今日から開店となる“キセキ店”。

 店長は皆さんお察しの通り、勿論、赤司征十郎。

 店員は言うまでもないが、緑間真太郎、紫原敦、青峰大輝、黄瀬涼太、黒子テツヤだ。

 緑間はレジの釣り銭を調整し、黒子は商品を綺麗に整えていく。

 紫原は黒子の手伝いをする。

 黒子がしゃがみながら下方にある物を、紫原が立ったまま上方の物を整えるという分担。

 背の高い紫原はついでに棚の上の掃除も命じられていた。

 青峰と黄瀬はその他の掃除。

 二人が同じところにつくと遊びに変わりかねないため、青峰が掃き掃除、黄瀬が拭き掃除をしている。

 赤司はというと……その様子を仁王立ちで見ている。

 たまに掃除組にあそこが出来ていない、ここが甘いと言うだけだ。


「なら赤司っちもして欲しいっスよ」


 途中、そう言おうとした黄瀬がいたが、青峰によって阻止された。


「お前、鋏の餌食になりてーのかよ!」


 と言うことだった。それもあるが、黄瀬が何か言うと何故か青峰まで巻き込まれるパターンが多い。

 自分の身も案じているのだろう。


「さあ、開店まであと10分だ。準備はいいか?」


 時計を見た赤司が皆に声をかけた。その声に、準備万端になった状態で、皆が赤司の前に集合する。

 開店前のミーティング。

 言い忘れていたが、全員が集まるのは今日だけだ。基本はシフト制となる。

 しかし、今日は開店初日。記念すべき一日目は皆でという赤司の希望だった。


「少し前から皆で準備してきたこの店も、今日やっと開店だ。気を引き締めていこう」


 その言葉に数人が頷いた。


「それぞれに今のうちに言っておこう。まずは青峰!」

「あ゛!?」


 気だるげに立っていた青峰はいきなり自信の名前を呼ばれて、驚き声をあげた。

 若干背筋も伸びている気がする。


「お客様に対しての態度を気を付けるように。その気だるそうな立ち方も駄目だ」

「……あー、分かってるっつーの」

「笑顔で接客する青峰も想像つかないのだよ」

「っるせぇよ」


 緑間の意見に一同が確かにと同意する。

 しかし、その全員の心も一致していた――お前もな――。

 そんな気持ちは敢えて言わず、赤司は別の事で緑間に目を向けた。


「緑間。お前には聞きたいことがある」

「何だ、赤司」


 準備中、緑間は頭が良いので、流石という早さで釣り銭の調節を終わらせていた。しかし、その後が問題だったのだ。


「あれは何だ?」


 赤司は困ったような顔をしながら、ある一角を指差した。


「準備中から僕も気になってました」

「気付いていたなら早く言ってくれないか、黒子」

「あっ、赤司君なら気付いていると思っていました。敢えて言わないのかと……」


 悪ふざけをしそうな掃除組に目を向けすぎていたのかもしれない、いや、緑間だからと安心しきっていたのかもしれない。

 赤司は自分の目が行き届いていなかったことに、不覚と未熟さを感じた。

 流石は黒子だ。


「あれか」


 緑間はふっと笑いながら、眼鏡をクイッとあげた。


「おは朝のラッキーアイテムコーナーだ。勿論、ちゃんと星座別に用意してある」


 そう、おは朝のラッキーアイテムが星座ごとに分けて置いてあるのだ。

 可愛らしい熊のぬいぐるみが“おは朝ラッキーアイテムコーナー”という札まで持っているものだから、何とも言えない。

 これを緑間が作ったのか。そう皆が思ったのは言うまでもない。

 問題なのはそのコーナーを勝手に作ったことではない。

 その商品を発注した覚えがないことだ。


「いつの間に準備したんだ?」

「これか? 数週間前からだ」


 一応発注する物は全て赤司が確認している――店長であるからには当然だ――。

 緑間は書類を取り出してきた。それは複数枚に渡る。


「まず、これはこの発注の時だ。これはこの発注の時、これは……」


 十二星座分のラッキーアイテムだ。全て同じところで扱っているわけがない。

 つまり、いずれこういうものが来るだろうと想像しながら、発注する時ついでにチェックして一緒に発注していたのだ。

 赤司は頭を抱えた。

 それを見て黄瀬が必死にフォローする。


「まあ、赤司っち考えてみて! 女の子は占い好きだし、ラッキーアイテムコーナーは良いかもしれないっスよ」


 まあ、やってみる価値はあるかと平静を取り戻した赤司――これからは緑間の発注書に目を光らせると誓った――。

 次の人物に目をやる。


「黄瀬はそのコミュニケーション能力で商品提案を頑張れ、ただしあまり混乱を招くな」


 黄瀬涼太がこの店にいる。きっとそれだけで女性客は殺到する。上手く対応しろ。

 混乱を招くなというのはそういうことだ。

 はいっス、と元気に手を挙げる黄瀬。若干、いやかなり不安しかない。


「紫原。開店したらお菓子は食べるな」

「えー」

「てめぇ、菓子のクズ落とすんじゃねーよ」


 今もなお、お菓子を頬張っている紫原。

 掃き掃除を担当した青峰に文句を言われながらも、その手と口が休まることはない。

 いいな、赤司が念入れてそう言うと渋々了承の声がした。

 紫原でも赤司に言われてしまえば仕方がない。


「最後、黒子」

「はい、何ですか?」

「お客様を驚かせるな」

「え?」


 特に対応等仕事については心配することはないだろう黒子。

 唯一言うとしたらそこだ。

 ぶはっと吹き出した青峰の横腹にイグナイトが放たれたことは置いておいて、赤司は手を叩いた。


「さあ、開店だ」

「そうっスね。何かワクワクするっス!」

「ヘマすんじゃねーぞ、黄瀬ぇ」

「しないっスよ、青峰っちじゃあるまいし」

「あ?」

「笑顔ですよ、青峰君」

「ほらー、ミドチンも笑いなよー」

「分かっている。そういうお前は菓子を食べるのを止めるのだよ」

「うん、分かったー」

「じゃあ、皆いいかい?」





――いらっしゃいませ。キセキ店へようこそ。



「店内、ごゆっくり御覧くださいませ」




END

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