黒バス2

□今日も暑いですね
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「暑い……暑すぎないっスかー?」


 帝光中の体育館。一軍、キセキの世代と呼ばれる6人しかいない状況。

 そして、このメンバーで話題を振るとなれば勿論黄瀬涼太だ。


「何なんスかー、この暑さ。まだ7月始まったばっかっスよ! あり得ない、8月とかどーなるんスか……」


 バスケットボールをつきながら反応するのは――詳しくはしてあげるだ――青峰大輝。


「暑いっつーともっと暑くなるから止めろ」


 確かにこの暑さは異常である。

 いつもハードなバスケ部の練習。

 熱中症と疑われる部員も多々いた。その為、今日の部活は中断。

 しかし、動き足りないという5人は残って自主練習をすることにした。

 ちなみに、黒子テツヤは倒れてステージ上に寝かされていたのだ。起きたのもつい先程だ。


「僕もこの暑さは辛いです」


 会話に参加する黒子。まあ、未だにステージに寝転がったままなのだが。


「大丈夫か、黒子」


 赤司征十郎は黒子にミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。

 お礼を言いながら黒子はそれを受け取った。

 ジメジメした暑い空気が体育館に広がる。


「よし、最初に暑いと言った黄瀬。何か涼しくなるようなことを考えろ。名前、涼太だしな」

「赤司っち、親父ギャ……」


 赤司が何とも言えない笑顔でこちらを見てくるものだから、黄瀬はその言葉を止めた。

 そして、赤司の無茶ぶりを受けた黄瀬は、赤司に言われたこと故真剣に考え始めた。

 少しの間沈黙が流れる。するのはボールの弾む音だけ。

 ぽんっと手を叩いて閃いたことを表現する。


「ちょっと待ってて欲しいっス」


 うきうきと駆けていく黄瀬の後ろ姿に嫌な予感がするのは、気のせいじゃないだろう。

 残されたメンバーは顔を見合わせた。

 赤司は悪戯な自分の発言を後悔した。

 そしてその後悔は現実の物となる。


「あーかしっちー!」


 赤司が振り返ろうとした瞬間だった。冷たく勢いよい衝撃が赤司を襲った。

 黄瀬を抜いたメンバーと空気が一気に凍りつく。


「涼しくなったっスか?」


 悪気は無いと言わんばかりのいい笑顔を浮かべる黄瀬。

 青峰はその頭を殴った。


「痛っ! もー、何スか」

「こっちまで寒くなるわ! お前バカか。ただのバカだろ!」

「バカバカ言わないで欲しいっス!」


 そう騒ぐなかでも、未だ動かない赤司を皆が見やる。

 黒子はステージを降りて出口に近づいた。

 赤司っち? と赤司の顔を黄瀬が覗きこむ。

 紫原までもが一筋の汗を流す。これは冷や汗か。


「……黄瀬」

「ハイっス!」


 赤司の呟きに、黄瀬は元気よく返事を返す。

 一瞬の間を用いて赤司はぐっと顔をあげた。


「黒子!」

「はい!」


 呼ばれた黒子は返事と共に赤司に向かってホースを投げた。

 そして赤司が受け取ったと同時にそこから水が放たれる。

 集中放水を浴びる黄瀬……と殴ったときのまま近くにいた青峰。


「ぎゃー!」

「ぶはっ!」


 二人の悲鳴が体育館に響き渡る。

 緑間は呆れたように溜め息を吐いた。


「緑間君」

「何なのだよ、くろっごぉっ!」


 緑間は黒子の名前を言おうとして言えなかった。何故か?

 何があったか説明しよう。

 名前を呼ばれて振り返った緑間の顔に黒子が別のホースを使い、水を放ったのだ。

 予想もしなかったことに、緑間は直撃を食らったのだった。


「黒子ー!」


 それから青峰までホースを取り出してきて水をぶちまく。

 三方から水を撒かれるここに逃げ場はない。


「あ……オレのまいう棒……」


 我関せずでまいう棒を貪っていた紫原にも水が飛んできた。

 紫原が濡れるということは、当然のごとくまいう棒も濡れるということ。

 紫原はのっそりと立ち上がって体育館の外へと出ていく。

 こんなにも大の男が移動しても騒ぎ回っている他のメンバーは気付かない。

 ホースを持っているのは赤司、黒子、青峰の三人。黄瀬と緑間の二人は集中放水を浴びている。

 たまに向きを変えて赤司は青峰に、黒子は赤司に水を当てていた。


「黒ちーん」


 名前を呼ばれると共に黒子の視界が一気に遮られ、全身濡れた。

 紫原の手には大きなバケツ。

 それを頭の上から一気に逆さまにされたのだ。

 今までお得意のミスディレクションで濡れずに来ていた黒子もとうとう濡れてしまった。

 もうこの場に濡れていないものはいない。

 彼らはまだ中学生だ。そうなればもうリミッターが外れたように、はしゃぎだす。

 あの赤司も緑間も例外なく皆楽しそうに顔を緩めていた。

 賑やかい声と水の音が体育館に響く。

 いつの間にか体育館の空気は涼しくなっていた。





「さて、これはどうしようか」


 一通りはしゃぎ終わって我に返った一同。

 彼らが立っているのは悲惨なまでに水浸しになった体育館のど真ん中。

 体育館で水遊びとは言語道断。

 自分達もびしょ濡れのこの状態だ。言い逃れは出来ないだろう。

 さすがの赤司でもどうしようもなく佇む。


「あー、あれだ。雨が降った」


 青峰の発言。

 ちなみに今日の降水確率は0%。


「体育館の中だけ降ったんス」


 バカ……失礼、黄瀬の発言。

 確実に無理がある。

 完全に詰んでいる。


 今日一番冷えた風が彼らを包んだ。

 もちろんこのあと教師に見つかった彼かがどうなったのかは言うまでもない。




END

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