黒バス×Free!
□00 プロローグ
1ページ/3ページ
何もない空間が広がっている。それは果てしなく続いて、どこが終わりの境目が一切不明で、胸に不安が流れ込む。
もう暗闇など恐れる歳でもないくせに、何故だかそれが恐くて、そっと手を伸ばす。
するとふいに何かがその手を握った。
誰の手だ。そう問いかけようとしたが、それよりも早く手を掴んできたモノが我が身を強引に一方へと引き寄せてくる。
一度は抵抗するものの、それは許されない。まるで糸により手繰りよせられているように。
――離せ。
そう強く思った時、ふいにそのモノの声が耳を貫いた。
「お前は許さない、許されないんだ――!」
先程よりも強く引かれる腕。それはあまりにも強くて、抵抗すらできない。
そう思った時、何かに照らされて光る刃物がこちらへと向けられた。その刃は深紅の液体を切っ先から伝わせている。
この刃は人間を殺したものだろうか、それともその他の動物へ向けられたのだろうか。
悠長にそう思考を巡らせていると、目にも止まらぬ速さで刃先が心の臓へと突き立てられた。
悲鳴など上げる暇はない。すでに痛いかすら分からない。
ただ思ったのは、そのモノがとても哀しげにこちらを見て笑っていることだけ。
そのモノが男なのか、はたまた女なのか。それすらも分からず、ただただ溢れ出る自らの血液を思いながら目を閉じるしかできなかった。
* * *
身体がびくりと震え、赤司征十郎は目を覚ました。
赤司は左右非対称の目――右瞳が赤、左瞳が黄色――で辺りを見渡すとそこはいつもと変わらない空間が広がっていた。
先程までは真っ暗の世界にいたはずなのだが、どうやらそれは夢の中だったらしい。
現に、彼は彩り豊かな物々が並べられている部屋の中にいる。その決定打として、ゆらりと動く瞳で窓辺の方を眺めてみれば、そこから太陽の光が差し込んでいる。
「勤務中にうたた寝なんて、ボクとしたことが失態だ。所長としての立場が泣く」
自分の行いを律しながら、赤司は机上に広げっぱなしになっている資料へと手を伸ばした。
今日のような陽気な午後は思わず眠くなる者もいるだろうが、勤務中に眠りへ落ちることは好ましくない。ましてや他の者たちが働いている時間にうたた寝など規則に厳しい人間から見れば怒りの矛先を向ける他ないだろう。
ましてや、赤司はこの探偵事務所『Miracle Free』の所長。そう、この探偵事務所内で一番上の地位にある。
そんな人間が勤務中――しかも他の者が働いている時――に寝ていたと知られれば立場がない。
グループの上に立ちまとめるということはグループメンバーの手本になることが暗黙の了解とされる。とは言っても、すべてがそうとは限らない。あくまで赤司なりの考えを持てば、そうなる。
まあでもずっとそのことに関して反省しているわけにもいかないので、赤司は溜め息まじりの深呼吸でそのことを流した。そして手に取った資料へと目を落とす。
「先月は先々月よりも少し依頼数が多かったのか。順調に増えてるな」
達成感を小さく呟いて、赤司はその資料を確認すると、今度は違う資料を手に取った。
探偵と言えば聞こえは派手な印象を持つ者もいるだろう。例をあげるならば、テレビドラマで探偵が殺人事件を警察官以上の名推理で解決する。その姿はとても可憐でクールなイメージを抱いたりもする。
しかし実際は違う。
探偵業務の主は調査。もちろん、犯罪調査という、いじめやストーカーなどの調査もある。ただそれだけではない。その他にも行動調査、俗にいう浮気調査や素行調査。人探しなどの行方調査。その他もろもろ。実に様々な調査を行うのが探偵である。
先程、調査業務が主であるとはいったが、それ以外にも個人依頼の指紋やDNA鑑定といった分析業務や、個人の相談ごとなども引き受けるのが探偵の便利なところである。
そしてその探偵事務所が上手くいくかどうかは、そこに勤める探偵の技量により決まる。
ちなみにこのMiracle Freeは探偵事務所としてはそれなりの結果を出している。少しずつでも依頼量が増えているのが何よりもの証拠だ。
赤司はそんなことを思いながら、ふと手を止めて時計へと視点を定める。
今日も依頼をこなすために、探偵たちが依頼現場へと足を運んでいる。二人一組で依頼に当たらせているが、彼らは今日も何不十分なく業務を遂行しているだろうか。
「さて、ボクも所長業務に戻ろうか」
赤司はぐっと腕を天井に伸ばした。
END ≪14.1.27≫