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□小さなPoteto
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「そいつがヤツか」

「そうっすけど……そういうと何かの犯人みたいっすね」


 高尾が笑って言うと、七瀬の眉間にそっと皺が寄った。そしてその下についている瞳がぎらりと高尾を睨み付ける。


「楽しそうだな」

「そりゃね。だって、小さくなるなんてありえねーし。で、そのありえねーのが二人揃うんすよ? 面白いに決まってんじゃん」


 その言葉に、七瀬の眉間がもっと深くなる。それと同時に、高尾の顔にポテトが当たる。


「笑うな!」


 小さな身体でポテトを投げつけてくる現状に笑うなというほうが無理な話だが、彼は高尾より一つ年上。

 ここは大人しく従ってあげるのが優しさだ。


「スイマセンって」


 高尾は笑いをこらえたまま謝った。するとまたそれが気に食わなかったようで、七瀬はむっとした。


 そんなやり取りを続けていると店のドアが開いて、ガッチリとした体格の男が入ってきた。

 体格のわりに、顔にある眉は八の字を描いていて、優しい印象を受ける。

 その男はキョロキョロと辺りを見渡していて、思わずそれをじっと高尾が見ていると、ふと目が合って、男はこちらへと駆け寄ってきた。


「ハル!」


 呼ばれた人名に振り返る七瀬。

 彼の反応から彼の友人と思って良いのだろう。その証拠に、七瀬がポテトへ伸ばしていた手を止めて、男の顔をよく見るために机の端まで駆け寄った。


「真琴!」


 高尾が彼の歩みを目で追うと、そこには桜井の姿。男の手の上でちょこんと正座している。


「和成君」


 桜井が高尾を呼ぶと、男は親切にも桜井を机の上へとおろした。同時に、桜井が高尾の方へと歩み寄る。


「良、無事だったか?」

「はい、和成君の声かと思って行ったら橘さんで。そしたらケータイを貸してくれて、ここまで連れてきてくれました」


 桜井は笑顔を浮かべて言った。どうやら橘真琴というこの男がとても親切にしてくれたらしい。

 高尾は胸を撫で下ろしながら、橘へ礼を口にした。

 すると八の字眉毛をもっと緩ませて橘は笑う。


「ううん、こちらこそありがとう。ハルの面倒をみてくれて」

「人を子どもやペットみたいに言うな!」

「ごめん、ごめん」


 七瀬は機嫌悪そうにそっぽを向くが、その顔はなんだかんだ言って安心している。まあ突然、小さくなった上に迷子となれば不安でならないだろう。

 良かった。高尾は心の中でそう呟くと、空いている前の席へと橘を誘導した。桜井も座るように指示をおくる。


 とりあえず互いにパートナーとは巡り会えた。となると、やることは一つ。

 この問題についての議論だ。まず口を切るのは高尾。


「ホント、いきなりだったよなー」


 宙へと視線を回しながら、高尾は今朝のことを思い出す。

 今日の朝は桜井のメールで起こされた。理由はその時には告げられず、とにかく来てほしいとのことで、高尾はとりあえず彼の家へと行った。

 すると出迎えてくれたのは背丈がずいぶんとなくなった桜井だった。

 その姿を見た時、高尾は大笑いした。そしてその後、どうしようかと考えていると、勝手に入ってきた猫に桜井が連れ去られてしまうという事態に陥った。

 高尾は誘拐された桜井を捜している最中に七瀬に出会ったのだ。

 そう高尾はざっくりと橘と七瀬に説明した。


「オレは真琴かと思ったのに、真琴じゃなかった。……声を頼りにいったのに」


 七瀬は頬を染めて横を向いた。

 その事態を例えるなら買い物に行って、小さい子が母親と赤の他人を間違えたと同等。恥ずかしいことに変わりはない。


「まあ、間違えても仕方ないよ。何か俺も高尾くんには親近感があるし」

「奇遇っすね。オレもっすよ、橘さん」

「僕は七瀬さんに」

「オレはお前に」


 他人とは思えないと何だか益々協調性が生まれたところで、今度は橘が話し出す。


「ハルが小さくなったのは東京に着いてすぐだったよ。オレが空港のトイレに行って戻ってきたらハルがいなくて……よく見ると荷物に潰されてた」

「ぶはっ」


 高尾が思わず吹き出して、七瀬は気に食わないと眉間の皺を刻ませた。


「笑うな! 高尾和成」

「だって……だって、七瀬さん荷物に潰されてたって……」


 分かっていても押さえられない笑いが込み上げて、高尾は腹を抱えて笑った。

 するとまたポテトが高尾をめがけて飛ぶ。


「こっちは生死が関わってたんだ!」



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