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□小さなPoteto
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「良ー? おーい? ……やべぇ、見失った……」


 高尾和成は東京の街を歩いている。

 日本内で最も人が集中しているところなだけあって、待ち合わせもなく会えるほど容易ではないと高尾は溜め息をついた。

 この捜し人が女ならロマンチックと思う者もいるかもしれないが、現実問題、そんなロマンスに巡りあってない。

 よって捜しているのは女ではなく、幼馴染みの桜井良。偽ることなく男である。


「……どうすっかな……」


 かれこれ三時間は捜し続けているものの、一向に彼の姿は見えない。

 携帯電話で連絡すれば早い話なのだが、現在、桜井は携帯電話を持っていないので、それは不可能。

 もう探すのをやめてしまえればいいと思うも、そう出来るほど冷めきった友人仲ではない。

 高尾は途方に暮れつつも、あと少し捜してみようと周囲を見渡した。

 その時、ズボンの裾を引っ張られたような気がして、高尾は前へ進もうとした足を止める。


 ――まさか!


「良か?」


 高尾は急いで足元を見た。ズボンの裾を引っ張られただけでも驚きなのに、そこには更なる驚愕が待っていた。

 なんと高尾の足元には15cmくらいの大きさの男の子が立っていたのだ。

 サラサラとした黒髪、その間から覗かせている大きく澄んだ蒼い瞳が高尾を見上げる。


「えっ……真琴じゃない……」


 高尾は目を大きくしたまま、呆然とその者を見つめた。


「……誰?」


 どちらともなく声が重なった。






「七瀬遙? ってか、声、良に似てるし」


 あんな場所でやり取りするのも何なのでは、二人はマジバに移動した。

 目的地に着いた後にすることは決まっていて、二人は自己紹介をして、互いに今の状況把握をすると頼んだ食へと手を伸ばす。

 15cmの七瀬は食べられないので、向き合いに座している高尾がポテトを千切って渡した。

 すると七瀬はちょこんと机に座ったまま、小さなポテトをもふっと頬張る。

 その姿が妙に愛らしくて、高尾の頬が緩んだ。


「んで、七瀬さんは何で小さくなったんすか?」


 話題は当然、それに絞られる。

 本来は175cmの身長がある七瀬だが、何故かいきなり体が小さくなったらしい。

 高尾が質問を溢すと、七瀬もまた答えるために食べる手を止める。


「分からない。昨日は特に何もなく普通に寝た。それで起きたらこうなってた」


 自分の姿を改めて見て、七瀬は溜め息をついた。


「……真琴に妹がいて助かった」


 七瀬が服を見ながら呟くと、高尾がすぐに反応を返す。

 七瀬が着ている服をどこかで見たことあると、ずっと思っていた高尾。その一言で思い出した。


「あっ、もしかしてそれ人形の服っすか?」


 七瀬はその質問に頷いて答えた。


「どうりで。その服、うちの妹ちゃんも持ってる」


 高尾は笑いながら続ける。


「いやー、オレの幼馴染みに桜井良ってヤツがいるんすけど、そいつも今日起きたら小さくなっててー。そんで服ねーし、どうしよっかなって話してるときに、妹ちゃんが人形の服貸してくれたんすよ。何個か持ってきてくれて、そん中にあった。うちの妹ちゃん優しくないっすか?」


 すらすらと口から出る言葉に、七瀬は立ち上がった。

 先ほどの言葉の中に、重要な共通点があった。


「今、何て言った?」


 七瀬は高尾の話を遮るように聞く。


「え? うちの妹ちゃん優しくないっすか?」

「そこじゃない!」


 そんな典型的なボケを望んでいないと七瀬は強めに突っ込んで正しい会話内容を促す。


「オレみたいに小さくなったヤツがいるのか?」

「いるっすよ。はぐれちゃったけど……あっ! そうだ、はぐれて捜してたんだ……忘れてた」


 思い出した高尾は一気に顔を青くして、変な汗が額に滲む。

 そんな高尾を脅かすように携帯電話が鳴り響く。

 一体、誰だろうか。そう思って高尾は携帯電話を見たが、そこに表示されているのは見たこともない知らない番号。

 高尾は首を傾げながらも恐る恐る通話ボタンへと指を立てた。


「……誰だろ? …………はい」


「和成君」


 相手の第一声は高尾を呼ぶものだった。しかし、それだけで十分すぎるほど声の主が誰なのかは分かった。

 この聞き慣れた声。


「良か?」


 高尾は捜していた幼馴染みの名前を問いかけるように言葉に出した。


「はい。今、どこですか?」


 正解を告げる桜井の肯定に、高尾はほっとしながら彼の問いへと答えを送る。


「マジバ」

「じゃあ、今から行きます」


 会話は短く終わってしまい、電話はすぐに切れた。

 誰かは分からないが、どうやら桜井と出会い、優しくしてくれた人物がいるらしい。

 ――感謝だな――。そう思う反面、七瀬を捜している者もいるのではないか、ならば自分もその相手に電話してやるべきかと思った。

 そう高尾が思考をめぐらせていると、ふと七瀬と目が合う。


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