Pandora Box

□Family
1ページ/19ページ

 リヴァイとペトラがアテナの家に来てから、1ヶ月が経った。春はまだ遠く、窓を開ければ息は白い。
 暖炉の薪はアテナにより、今日もせっせとくべられる。

 リヴァイの痣と頭部の傷はすっかり消え、あとは折れた肋の回復を待つのみである。

 とはいえ、肋も着実に回復しつつあった。杖をついてなら、自力で歩ける。杖はやはりアテナが用意したものだ。どこかの部屋でインテリアになっていたのを、思い出したのだ。
 最初はその杖も、リヴァイは「爺臭ぇ」と言って使わなかったが、気品あるシンプルなものだったのと、アテナに「似合いますよ」と笑顔で言われて使うようになった。
 この男も大概、単純である。

 リヴァイが1人で移動しようとすると、心配性で世話焼きなアテナがいつもついて来る。手洗い以外は、の話だが。

 それを鬱陶しく、また、何のための杖だ、と思う反面、許してしまう自分がいるのも事実だった。

 リヴァイが1人で動くようになってからは、アテナたちの生活はそれなりに習慣化され、規則的なものになっていた。

 まずアテナが起き、自室で着替えて朝食を作る。そして物音や朝食の匂いでペトラが起きる。
 ペトラはリヴァイの腹に乗っかって彼を手荒く起こし、痛みでリヴァイが目覚める。
 腹に乗るなと言っても、ペトラはいっこうに聞かない。手をつけられない小さな巨人に、リヴァイもアテナもお手上げの状態だった。

 全員が起きると、アテナが作ったテーブル――足を切り落として、リヴァイがベッドに座っていても食べやすくしたもの――を3人で囲み、少し量の多い朝食をとる。

 ペトラが来てからは、リヴァイが栄養がなんたらと言いだしたため、野菜が多くなった。
 この季節でも食材が充分揃うあたりは、さすが【ウォール・シーナ】内である。

 食事中、すぐにペトラは口周りを汚す。それを拭ってやるのはアテナだったのだが、いつの間にかリヴァイに替わっていた。

 アテナとペトラが食器を片づけてから、3人揃って歯を磨く。ペトラの歯は、後でリヴァイが磨きなおすことがほとんどだ。

 磨き終わるとリヴァイは部屋へ戻り、アテナとペトラは洗濯をする。
 リヴァイはアテナから借りた本を開く。今借りているのは、もとからこの家にあったという兵団の歴史書だ。本をベッドで読みつつ、外で洗濯物を干すアテナとペトラを眺める。

 物干し竿には、リヴァイとアテナ、ペトラの服が並ぶ。何故かいつも、リヴァイ側からその順番だ。
 並ぶ服は、リヴァイたちが来てから1週間程かけて、アテナが徐々に買い揃えたものだ。さすがに、顔を真っ赤にして涙を浮かべながら新品の下着を手渡されたときは、申し訳なく思った。
 ちなみに、リヴァイの下着を洗濯するのはペトラの役目になっている。

 彼女たちが洗濯から戻ると、長い掃除が始まる。手伝っているペトラは、片付けているのか散らかしているのかよくわからない。
 リヴァイはというと、その掃除を厳しい顔で監視する。

 怪我人なので彼は手伝えないが、その指示は毎度やたら細かい。そんな小姑リヴァイにも、アテナは文句一つ言わずに遣り遂げるのだから、彼女の甲斐甲斐しさはやはり並はずれたものなのだろう。

 長い掃除が終わると、ピカピカになった部屋に昼食が用意される。

 それも同じようにテーブルを囲んで食べると、ペトラはリヴァイの隣で甘えるように昼寝をする。ベッドの上で本を読むリヴァイの膝に、ぺったりとひっついているのだ。
 リヴァイは本に読み飽きて手持無沙汰になると、無意識にペトラの焦茶色のくせ毛を指へ絡めて遊ぶ。
 そこにアテナはいない。ペトラが昼寝をすると、アテナは必ず2〜3時間はいなくなる。

 リヴァイにとって、最も暇な時間である。きりが良くなるまで本を読んでから、彼もペトラと一緒になって昼寝をする。
 アテナのことが気掛かりで、少し寝付きは悪い。いや、元々寝付きは余り良くない方なのだが。

 気になっても、アテナに「何処へ」とは訊かない。アテナが家を出る気配はないので、家の中にはいるはずである。
 もしかしたら、何処にあるかも知らない彼女の自室にいるのかもしれない。

 そして何故か、部屋に戻ってきたアテナからは石鹸の香がする。
 気になってはいたが、いちいち踏み込むのも気後れしてしまい、真相は分からず仕舞いである。

 アテナが部屋に戻ると、昼寝中のペトラを起こす。起きたペトラは無邪気に絵を描いたり、アテナと追いかけっこをしてはしゃぐ。
 それにリヴァイが文句を垂れ、アテナが宥める。

 日が暮れる頃、アテナとペトラが洗濯物を取り込む。その間に、リヴァイは部屋を換気する。

 少女たちは暖炉の前で、取り込んだ洗濯物を畳みながら談笑する。
 アテナとペトラの横顔を眺めながら、リヴァイは暇そうにあくびをするか、また本を読んでいるかのどちらかだ。

 夜になると、また彼女は居なくなる。何度リヴァイが注意しても、アテナは必ず水汲みに行く。

 幸いこの家には、蛇口を捻れば水が出てくるという不思議な『水道』がある。水道の水を熱消毒させればいい。そうリヴァイは提案してみたが、アテナは曖昧な笑みを浮かべるとそそくさと出て行ってしまうのだ。

 また、『人に出会いたくない』という意外にも人見知り的な発言をした彼女は、夜に買い物をする。
 こんな時間に開いている店があるのか。地下街の住人であるリヴァイはそう疑問に思ったが、事実、彼女は水とは反対の手に食材を持って帰ってくるのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ