10萬打リク作品

□縁と環(えにしとわっか)
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小さい頃から、時々変なものを見た。
他の人は見えないらしいそれらはおそらく、妖怪と呼ばれるものの類。
それらが見えることは、絶対に秘密だ。



朝は靄すらかかるほどなのに、日が差すや否や声を限りに響く蝉の歌が風を通すために細く開けた窓をぬけて耳に届く。
時間に追われることのない朝なのに、夏目が魘されるでも、塔子に呼ばれる前でもなく目覚めることができたのは、彼らの声に促された・・・からではなかった。

「なーつめーさまー」
「なつめさまー」

空耳ということにしておきたい聞き知った2人(人・・・匹?)の声が、ひたむきな蝉に紛れて届いたからである。

―夏目組、犬の会

なんだそれはと何度改めろと言ったか知れない、ようは暇な奴らの遊びの集まりで、縁を結んだアヤカシ達が夏目と好き勝手遊ぶためのものだ。
その顔触れは名を知らぬ中級たちに始まり、河童や子狐、友人帳に名を預けてくれている三篠や、祖母レイコにぞっこんだと豪語するヒノエといったとあるアヤカシに言わせればそうそうたる大物たちなのだそう。
勿論、夏目にとっては騒がしくて厄介で、けれども昔のように煩わしいとは思えなくなった大切な友人たちでしかないのだけれど。

さて、彼らの声は自分以外には聞こえない。
だから塔子たちに迷惑だとかいうことはないけれど、聞こえないふりをするには。

「「なつめさまー」」
「夏目―」
「夏目の親分―」

増えた声に深々とため息。
近くで転がっている猫だるまを八つ当たりのようにわしゃりと撫でて身体を起こした。

「やれやれ」

面倒くさそうな声を出しながらも顔が笑ってしまっているのは、鏡を見ずとも知っていた。




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