10萬打リク作品

□異邦人への福音
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父とも母ともいえるヴェーダの中で、ティエリアの意識は溶けだしていた。
誇るべき愛しい仲間達に世界を任せ、ティエリアは遥かな先、来るべき対話の時に人類の助けになるべく眠りにつく。
生み出されてから還りゆくまでの記録、記憶、感情の全てが母体であるヴェーダにバックアップされていくのを感じ取りながら笑う。


ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターとして目覚めてからの日々を思い返せば、ただ感謝しかない。
ただ一人、イノベイドやイオリア計画の全貌を知らされずに生み出された自分は初め、盲目にヴェーダを慕う赤子のようであった。


それを絶えず気にかけ感情を育んでくれたのはロックオン―ニ―ル。

他者への労わりを表す手本を見せてくれたのはアレルヤ。

そして、揺るがぬ意思と諦めぬ強さを示してくれたのは刹那。


スメラギ、イアン、ラッセ、フェルト、ミレイナ、ライル
Dr.モレノ、クリスティーナ、リヒティ


彼らとの時間は常に戦いと背中合わせの安穏とは程遠いものだったけれど、彼らの優しさに気付くことが出来てからの日々は何よりも尊く愛おしいものであったと胸を張って言える。


(いつか君達と同じところへと旅立つ時に、笑って出迎えてくれるだろうか)


対話の時はまだ遠く、仲間と言葉をかわすことはもうないと分かっているからこその願いをひとりごちた時、ティエリアはさりりと意識を逆撫でる違和感を感じた。
淀みなく流れゆく情報の奔流が僅かに歪んでいるような、そんな感覚。

リンクしたヴェーダのデータベースを隈なく探せば、何層ものデータ階層に紛れるようなバグに行きあたる。


≪CODE:GEASS≫


(コード、ギアス?なんだこれは)

紅く点滅するそれを読み上げたところで、今度は先程よりもあからさまな異変が生じた。
バグの輝きが一層増して意識体に過ぎないはずのティエリアの目を灼くほどの眩さを発し、というか勝手に肉体を再構築し始め、強烈な吸引力でもって再び得た肉体を引き寄せてきたのである。


「っどうなっている!!」


飛び出た肉声は我ながら動転しきっていた。
踏み止まろうにも掴む物もない中空にあってはどうにも抗える訳もなく、とっさにティエリアはこう叫ぶことくらいしかできなかった。


「ヴェ、ヴェーダ内にバックアップされた“私”を有事の際には使え―っ!!」


隔絶されたいずこかへと輝きが繋がっていると直感的に悟ったが故の指示は、勿論来るべき対話のためであり、流石根っからの真面目人間、真面目イノベイド。
ヴェーダの受諾メッセージを見ることもなく、その言葉を残して紫の髪のガンダムマイスターはその場から消え去った。


彼女を吸い込んだはずのバグも、紅い輝きも消えうせて、後には淀みなく流れゆく情報を演算し続けるヴェーダの青緑の表示だけが残されたのである。




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