10萬打リク作品

□親愛なる、
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ルルーシュにとって父親というものは、憎らしく恨めしく想う相手であって、間違っても日頃の感謝を伝えたりするような存在ではなかった。
自己を否定されてしまう以前もあまりに威圧的な雰囲気に気押されてしまっていて、いっそ年の大きく離れた長兄次兄の方がよほどその対象であっただろう。


しかし怒涛の人生の幕を終えて何の因果か転生した先では、まるっきり事情は異なった。


たった二年で死に分かれてしまった今世の父は、目を細めて笑う様が優しい人だった。
活発で気丈な性質であるらしい母に比べれば物腰の柔らかでおっとりとしていて、ルルーシュが寝かされたゆりかごをゆったりと揺らすうちにどちらも眠りに落ちてしまうような穏やかな時間を、休日には過ごしていて。
あの襲撃の夜は、ルルーシュを抱えていた母を庇って死んでしまった。


愛されていたし、愛している。


そう何の屈託もなく“父親”に言うことができるだなんて思いもしなかったが、やはり自分とよく似たおもざしの彼にはその想いしか浮かばない。
これだけでも驚くべきであるのに、今はもう一人、そう思うことに躊躇いを覚えない人がいるのだ。


生活習慣は目を離せばすぐに乱れるし、趣味に没頭すれば部屋の片づけなんてすぐに忘れるし、精神年齢をいえば自分より少しだけ年下のような奴だけれど。

自分に干渉してこないと踏んで引き取られた日から幾年も過ぎた今、不器用な愛情を向けてくれていることを否定させない、自分自身どこか実父に抱くのと似た慕わしさを感じる人。
―セブルス・スネイプ。


今まで縁がなかったが故に意識もせずに過ごしていたが、この前偶然にルームメイトの話を聞いて興味を持ったから。


今年は、「父の日」とやらを祝ってみようかと考えた。


だが、今までとんと意識していなかったイベントなだけに、いざ参加してみようと思ったときルルーシュは困惑した。
母の日ならカーネーション、バレンタインならチョコレートと言ったような定番の贈り物が父の日にはないのだからさもありなん。


酒やネクタイ、食事に行くといったのが世の主流だそうだが、酒はともかく魔法界でネクタイはあまり普及した服飾とは言い難い。
かといって食事に誘うにも自分が作る和食を一番の好物だなんていう相手がそう喜ぶとも思えないし、そもそも奴も自分もそう遠出ができる訳ではない。


密かにお手上げ状態であったのを救ってくれたのはこっそり交流を続けているハーマイオニーだった。


もはや恒例となっている週末の勉強会でうっかりと漏らした愚痴に、獅子寮の才女はにっこりと笑う。




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