一万打リク作品

□想いを届けて
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【合衆国中華、朱禁城】


《ちょっとブリタニアに行ってきます》

その書き置きを発見した時、合衆国中華の敏腕執政官は凍り付いたように動きを止めた。
ひらりと変な形に固まった手から床に向かって舞い落ちていくのを、白魚のような、と表現するに相応しいほっそりとした手が拾い上げる。
少々綴りが怪しいところがあるものの、のびやかに書かれた愛嬌のある筆跡を認めて彼女はふむふむと頷く。

ついで、書き置きを取り落としたことにも気づかず未だに彫刻と化したままの男をしげしげと観察してから、おもむろに膝めがけて軽く蹴りを入れた。
かくんと倒れかけるその衝撃で漸く我に返ったらしい男が険しい顔で部屋を出て行こうとするのを、足払いをかけることで止めると、女は見事にこけた背中に腰掛ける。


「はじめてのお使い・・・になるのかな?これは」


じたばたと暴れる夫の声に聞こえぬふりをして、くすぐったそうにルルーシュは笑った。



【ブリタニア共和国、セントラル・ステーション】


足早に行き交う人混みの中、周りより半分ほど低い位置で動く2つの頭が見え隠れしている。
ブリタニアでは珍しい黒檀の髪色にちらほらと視線が飛ぶが、それらは総じて微笑ましい。
なにせ、そっくりな顔立ちでしたしたと歩いているのは大層可愛いらしい子どもたちだったので。
周りの視線をものともせずに、紅瑪瑙の瞳をした少女が口を開く。


「とりあえず本国には来られたわねぇ」
次はお土産を買わなければ。


おっとりとした口調で辺りを見渡す少女に対して、やや硬めの語調で少年が口を挟んだ。
こちらは見事な紫水晶の瞳である。


「母さんには一言いっておいた方がよかったんじゃないか?姉さん」
今頃父さんや省兄が大騒ぎしてるぞ。


幼い顔をせいぜいしかめてみせる弟に姉はやはりほけほけと笑ってみせる。


「大丈夫よ、お母様は案外ノリがいいってCCさんも言ってたもの」

「そのCCさんが面白がって騒ぎを大きくしないかが心配なんだけど………」


誰に似たのかふわふわと花を飛ばさんばかりに呑気な姉に、両親の激しい気性を見事に引き継いだ苦労性の弟は深いため息をついた。


この2人は知る人ぞ知る有名人である。

彼らが、というより彼らの両親が世界的知名度を誇るのだ。
世界の三大勢力―EU、ブリタニア共和国、合衆国連合―の一つ、合衆国連合のCEOを母に、合衆国連合一の人口数を誇る中華の大臣を父に持つ双子の姉弟、それが彼らの正体だった。





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