一万打リク作品

□大人げなく、無自覚に
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克也は苛立っていた。
苛立ちの対象は勿論、生意気な元・御霊部の鈴男である。
同僚たちには素直になればいいのに、などと揶揄されるが一体何に素直になれというのか。
というか自分は十分素直に行動している。

他人行儀でも生意気でも苛立たせるとは、なんとも面倒なお子様だ。

誰かが克也の思考を読むことができれば、すぐさまお前ほどではないと突っ込むだろうことを考えながら、
黙々と小テストの採点をしていく。
正面に座っていた初老の教師(女性)に「手際がいいわね〜」と褒められてにっこりと本心から微笑み返しながら、
柊一が自分と同じかそれ以上に書類捌きが達者なことを思い出す。
4月にやってきた柊一に誠志朗が書類のやり方を教えていたはずが、いつのまにやら教えられていたのは年長組の笑い話だ。


聞けば三人しかいない御霊部で任務に出るのはほとんどが柊一だけだったために報告書は朝飯前らしい。
上層部への提出書類はサトリの部長がやっていたようだが、あの和製吸血鬼に横流しされることも多々あったせいで
書類作成能力はぐんぐんあがっていったそうな。


全てが伝聞形なのは、柊一から話を聞いた誠志朗が耕作に話したのを克也が聞いたからである。
別に知りたかったわけではないが、本人から直接聞いた訳ではない、その一事が妙に苛立たしい。

普通の生徒としてふるまう柊一を見るのもまた、克也の苛立ちを煽った。

例の怪事件以降、妙な縁でもできたのかよくテニス部とつるむ様になったとはオフィスでの雑談で聞くともなしに知っていたが、
その縁は留学先でも健在のようでクラスのテニス部部長を筆頭になんのかんのとよく一緒にいるのを見かけるのだ。
そのたび、演技の裏に滲む本心からの笑顔を浮かべる柊一がいて、それを向けられるのはテニス部の誰かである。


込み上げた苛立ちに任せて力を入れ過ぎたペン先が嫌な音を立てたことで我に返った克也は、気持ちを入れ替えようと席を立った。
休日出勤だからだろう、どこかのんびりした空気が漂う職員室の誰からも唐突な克也の行動は咎められることなく送りだされる。


(邪魔な生徒もいないんだ、鈴男呼び出してダウジングさせよう)


閑散とした廊下を歩きながら妙案とばかりに頷く。
これまでの思考回路からして紛れもない八つ当たりだが、生憎それを指摘してくれるものはいなかったため克也は嬉々として柊一の番号を携帯から探し始めた。


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ものすごく理不尽な理由で呼び出しをかけられつつある柊一は、実は既に学園内にいた。

それは先輩の任務を助けようなんていう殊勝な理由からでは勿論なく、親しくなったテニス部の面々に練習試合があるから見に来ないかと誘われたためである。

相手校は幸村たちの話にも度々出ていた青春学園というところだそうで、普段はどちらかといえば宥め役に回る隣席の生徒会長が

「俺様の美技に酔いな!」

とか叫んでしまうくらいには因縁の相手らしい。
とりあえず唐突な叫びに心底相手の精神状態を心配した。



休日にも関わらずそこかしこに女生徒の姿が見られるテニスコート。
立海と同じく顔面偏差値がやたら高い氷帝のテニス部も女子の人気が凄まじい。

近づくに近づけずどうしようか考え込んでいれば、うっひゃーとテンションの高い声が聞こえてきた。
誰だろうと眼を向けると青いジャージの集団―ラケットを担いでいるし、恐らく彼らが青春学園のテニス部だろう。
もはやお約束に整った顔立ちの集団に、テニス部の誤った認識が構築されそうな柊一である。乾いた笑みを浮かべていれば、
青い集団がすぐ近くで立ち止まる。
げんなりした顔を見るに、柊一と同じくあのギャラリーに躊躇したのだろう。

なんせぐるりとコートを囲む形をした観客席の大半を女子が埋め尽くしているのだ。
唯一の入り口にも選手の出待ちをしている姿があり正直近づきたくない。

呼ばれたからには顔見せたいけどなぁ・・・と思案していると集団の中から身軽に飛び出してきた人物に声をかけられた。


「ねぇねぇ、君ってテニス部の関係者?」

「いや、練習試合を見に来ないか、って誘われただけ。ただ、あの有様だから・・・」

「だよね〜。テニス部だったら跡部とか呼んでもらって解決してもらえたらな〜って思ったんだけど」


猫の様な雰囲気をしたその人の言葉に、あ、と思わず声を漏らす。
え?と首を傾げる彼に苦笑を返しながら携帯を取り出す。


「ごめん、完全に忘れてた。僕彼の電話番号知ってた」

「えマジで!やったにゃー!!」

「にゃ・・・?!」


衝撃的な語尾を残してくるりと身を翻した彼は

「手塚―!跡部と連絡とれる人見つけたー!」

と集団へと駆けていく。
とりあえず最後の言葉は聞こえなかったことにして柊一は全力の上から目線で渡された隣席の生徒会長、
もとい氷帝テニス部部長の跡部景吾の番号を携帯から探した。

「ありがたく受け取りな」

なんて言い方はともかく、赤外線ではなく紙に書いてよこすあたりがなんとも面白い人物は、
数回のコールの内に出た。
ざわざわと辺りが騒がしいような気もするが、あの女子の数である、声が聞きとれるだけましだろう。


『飛鳥 か』

「うん、僕だ。今コートの近くに青春学園の人たちとかといるんだけど、ちょっと入りづらいというか・・・・」

『あぁ ん? チ ッ周りの雌猫 もか』

「そういう言い方はどうかと思うぞ。まぁともかくはっきり言うと近づけない」

『わかっ 、誰かよ すからそのま 青学の連中と 緒にいろ。 の辺りにい ?』

「コートの入り口から見て正面の土手の上。じゃあ待っているな」

『あ ぁ』


やたらと途切れる声を苦労して聞き取りながら通話を切れば、
何時の間にやら青春学園(略称は青学らしい)の面々に取り囲まれていた。

程度の差はあれど全員が興味津津といった顔をしていて、
特に身を乗り出さんばかりの勢いを感じるのが眼の前に立った逆行眼鏡だった。
彼が手に持つノートとペンに、ものすごい既視感を感じる。


「え、と・・・?」

「君はテニス部ではないということだが跡部とはどういう関係なんだ?というかあいつはあの性格だからテニス部以外に友人関係を築けていないんじゃないかと推定していたのだがそうでもないんだろうか、つまり君は跡部の友人ということか?だが身辺データはそれなりに集めていたがそういう話は聞いていないんだがそこのところは(略)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


柳2号がいるっ!!!


どんびきしているのに気付いたのか、怒涛の様な逆行眼鏡の質問攻めは仲間たちに強制終了をかけられていた。
このあたり立海の面々より良識がある。
柳が暴走しても止めてくれるのは柳生やジャッカルだけで、その他は基本放置か面白がるだけだし。

とりあえず聞きとれた質問にだけ答えようかと口を開きかけたあたりでおーいと聞きなれた声がしたため振り返れば、
跡部の次によく一緒にいる丸眼鏡もとい忍足が小走りに近寄ってくる。


「忍足、悪いな」

「飛鳥井のせいやないやろ、むしろ強行突破とかせんでくれて助かったわ。
青学もウチとどっこいどっこいやから、悪化しとったやろ」


何が、とは言われなかったが、言われなくてもわかる。
ミーハーな女子の群れに美形集団を投入するなんて、飢えた狼の群れに子山羊を放り込む様なものだ、冗談ではなく。

出てくるときに牽制でもしたのか、入口付近を占領していた女子たちは一年部員たちのバリケードの外へと移動しており、
今のうちにと全員で忍足のあとに続いた。
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