一万打リク作品

□紫カレー事件〜後日談〜
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シイタケやら三つ葉やら。
この時勢でよくもまぁ手に入れられたと感心する程懐かしい食材を、ゼロの指示のもと手を加えていく。
そもそもが切って加えて蒸すだけで、蒸す時の加減が少々難しいだけの料理なのでカレーのように妙なものを加える余地もない。


何の問題もおこるまい。


そうゼロは信じていたし、恐らくそれは叶ったはずの信頼であった。
卵液にだしを加える段階で、彼女をブリッジが呼び出しさえしなければ。


『ゼロ、蓬莱島のライフラインの一部に問題が・・・』

「担当はどうした」

『もともと不具合が報告されていたのですが、担当は体調を崩していて私達では分からないところがあります』

「わかった、すぐいこう」


内線から伝えられた内容に応じ申し訳なさそうに振り返ったゼロにカグヤ達はにこやかに気にするなと告げた。
あとはだしを加えて味を調整するだけだから、とそう送りだす。
すまないと言いながらゼロが部屋を出ていくと、ふと卵液を見ていたカグヤが口を開いた。


「私茶碗蒸しを見ているといつも思っていたのですけれど、似てますわよね」

「?何にです?」


塩やみりんに手を伸ばしていた千葉が聞き返す。
それにいたって真面目な顔をしてカグヤは答えた。


「プリンにです」


黄色くてつやつやで、ふるふると震えるあの形状。
確かに似ている。

そしてカグヤと千葉は紫カレーを疑問に思わずに制作したメンバーであり、カレンはサバイバル料理に慣れてはいるものの普段は調理に関わらないお嬢様生活をしていた人間であった。
沈黙が落ち、全員の視線がボールに波打つ卵液へと向けられる。


「・・・違いは、味だけよね」

―いいえ具材の有無もありますよ

「・・・砂糖を入れたらプリンだよな」

―蒸すのとオーブン加熱とは偉い違いですよ

「・・・まだこの卵液、何も加えてませんわよね」

―だしと塩・みりんを入れるんでしょう?


「「「・・・・・・・・・・・・・」」」


きらん、と砂糖のケースが輝いたように、3人は見えた。
無論のこと、錯覚か幻覚である。



やがて帰ってきたゼロは、妙に甘い匂いが漂うキッチンに首をかしげつつも、やり遂げた笑顔を浮かべている3人を微笑ましく思い、しっかりアルミホイルで蓋までしめてあるのにやる気満々だなと声をかける。

そのまま冷蔵庫へと茶碗蒸し達は持って行かれ、ゼロは次なる献立「肉じゃが」の指導に移った。
だがここで味付けの加減が豪快すぎる千葉や、手つきが危なっかしいカグヤ、なにをどうしたのか突然菜箸を炎上させたカレンにキッチンは大騒ぎになり、とある事実は実行者たちの脳裏から完全に忘れ去られることになる。




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