短編

□君が笑うから今日を祝う
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「くーりすます が ことしも やってくるー♪」


朝起きたらすごいご機嫌な歌が聞こえてきた。
それが同居人ではなく腐れ縁となりつつある好敵手のものであることに、雲雀は半眼になる。

す……と障子の滑る微かな音に起き上がりざま顔を向ければ、そこには鏡で写したように同じ表情をしている同居人その2の姿。

「…なんであれがいるの」
「んなのルルーシュに言え」


花宮はこちらをイラつかせる表情で肩をすくめる。
だが自分もどうやら彼の身内とされているからだろう、一応の説明が続けられた。

「去年のクリスマス、満月が重なるってのが38年ぶりだったんだと」
「……去年」
「一年くらいは誤差の範疇だそうだ」

そしてこのビッグイベントに乗らねば!と、謎の使命感に駆られて奴は我が家に駆け込んできたらしい。
ここをイベント会場と勘違いしてやいないか。
騒がしさから察するに、奴の取り巻き揃い踏みとみた。

「起きたくない」

正確には人が群れてるだろう広間に行きたくない。
十分伝わっているだろうに、花宮はにべもなく却下した。

「ルルーシュが起こしにくるならまだしも、下手すりゃ六道がくるんじゃねーの?」

あと、俺があいつに小言言われるからとっとと起きろ。

「……」

むすっとしたまま、仕方なしに布団から立ち上がった。
理不尽な物言いにムカつかなくなったのはいつからだったか。
思えば随分と、長いつきあいになったものである。


§ § §


連れ立って騒ぎのもとに行くと、意外にも六道1人だけがいた。
和室に違和感を遺憾なく炸裂させているツリーにうきうきと飾り付けしている。
話しかければ、ツリーの後ろ側から、浮かれた声が投げられた。

「なんだってイブじゃなく当日に騒ぎだすの」
「おや雲雀君。おはようございます、邪魔してますよ!」
「はいはい、おはよう」
「雲雀でもイブがメインってことはわかるんだな」
「真、どういう意味」

単にイブに取り締まった輩の方が多いことに基づく推論である。
間違っちゃないし、そもそも一年ズレている。

てっぺんの星を乗っけて満足したらしい六道は、ようやくツリーから離れてこちらにやってきた。
幸せそうでなによりだが、世界を壊す野望はどうしたのか。

「別に僕がやりたいのは聖人の聖誕祭ではありませんからね。
巡り合わせの妙を楽しみたいだけなので」
「言い繕ってるが、結局騒ぐんだろ?」
「勿論」

真顔だ。
ボンゴレ筆頭にマフィア御一同に告げたい。楽しいイベントで世界を満たせばこの最悪の幻術使いはおとなしく満喫するぞ、と。

先ほどまでの騒がしさの原因たちはどうしたのかと問えば、起き抜けの雲雀に咬み殺されないよう、ルルーシュにお使いを頼まれたらしい。
懸命である。

「そういや、ボンゴレ側で霧の行方が知れないとか騒いでたが」
「あぁ、仕事片付けた時に端末が壊れまして」
「クローム髑髏のもか」
「不運なことです」

飄々とうそぶく六道に、花宮は肩をすくめるだけに留めた。
文字通り身一つでこの世界にやってきた花宮にとって、ルルーシュの平穏以外はどうでもよいことだ。
ボンゴレ側がすわ世界大戦が画策されてやしないかと戦々恐々としていたとて同じこと。
イイコちゃん嫌いは相変わらずであった。

腹の黒い2人のどうでもよいやりとりを放置して、家主は台所に旅立っていた。


§ § §


「ルルーシュ」

呼べば振り返る、この上なく割烹着の似合っている同居人はぱたぱたとこちらへやってくる。
笑顔を浮かべて駆け寄る彼女も、楽しそうでなによりだ。

「おはよう、真が呼びに行ってくれたのか」
「その前に騒がしくて起きていたけどね」
「プレゼントは今年は禁止されたから、骸は本当に丁度いいタイミングで来てくれたよ」
「四次元ポケットはそりゃあね」

あの科学者はやり過ぎた挙句に世界のバランスが崩れたどこかの未来をなんだと思っているのだろう。
猫型ロボットの登場は近い。

「でもほら、恭弥だって骸単体なら嬉しいだろ?」
「なんで」

頭が良すぎるのも考えものだ。
どこから引っ張り出したその発想。
雲雀の反応に、ルルーシュは不可解そうに首をかしげる。

「弱くないし、頭がいいだろ」
「群れてるでしょ」
「弱いばかり群れを成す、そういうのとは違うだろ」

それでも複数は複数、群れは群れだとわかってほしい。蕁麻疹が出るくらいには、群れへの拒絶反応は深刻なのだ。
もっとも、だからあの部屋には六道しかいないのだろうけれど。

「いるのは仕方ないけど、僕は騒ぎに参加しないからね」
「ご飯はどうする?メニューにハンバーグ、」
「ご飯食べたら引っ込むからね」


華麗な変わり身にルルーシュは声をあげて笑った。


§ § §


大皿小皿をふんだんに使い綺麗に盛り付けられたのは、デミグラスソースも艶やかなハンバーグにピザ。ミートパイに定番のチキン。
風紀財団には和室しかないから、結局どこまでも違和感は拭えない。

「だが、骸が今日ばかりはどこまでも正しいと思うんだよな」

まだまだあるらしい料理をクロームとともに運んでくるルルーシュは、賑やかに騒いでいる骸一味と、それに段々と苛立ちを募らせている雲雀を見ながら楽しげにいう。
手伝うでもなく入口で胡坐をかいていた花宮は無言で彼女をみあげた。

「そろそろ雲雀が暴れそうだが、それでもか?」
「賑やかに騒いで、はしゃいで、楽しむのはいつになったっていいものだろ。
日本におけるクリスマスってのはそういうものじゃないか」
「・・・お前の世界でも、俺の世界でも結局はそうだな」

憎悪に身を焦がした過去があろうが。
他人から恐れられる暴君だろうが。
いまここで騒いでいる連中の誰もが、そんな背景を捨て去って浮かれている。

「なんだか幸せじゃないか」

眩しそうに目を細めて、ルルーシュはその騒ぎの中へ飛び込んでいく。
彼女を追いかけようとしたクロームは、花宮の傍らを通り過ぎるときにぼそりと漏れた声を拾った。
振り返れば、無表情の花宮は少し口の端を緩めて人差し指を唇にあてて見せるので頷いてやる。ここまでのやりとりを聞いていて、クロームだって花宮と同じことを想ったのだ。
だから、二人だけの秘密を持つ。






(お前がそうやって笑うから、こいつらは毎年なんだかんだと騒ぐんだよ)






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