短編

□2015ハロウィン小説
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昔、一人の男が恋をした。

恋した相手は吸血鬼…のなり損ない。
人からも魔物からも狙われる彼女に恋して、愛した男は彼女と契約した。
彼の命の終わりまで続く主従と夫婦の血の契約は、けれど彼女をなり損ないにした魔物の執念に僅かにほころびを作ってしまった。

男が死ねば共に朽ちるはずであった彼女は生き残り、死ねない身体をより一層嘆いた。
嘆いて、嘆いて、それでも死なない身体に絶望して。
彷徨い続けた先で、彼女は愛した男に似た瞳をもつ女と出会う。


“どうか私を殺してほしい。それが叶わないのならば、二度と目覚めぬようにして”


女は魔物を殺すため、不可思議な氷の術を会得していた。
まるで人間のように嘆き続ける彼女を哀れに思い、女はその願いをきいてやった。
氷に閉ざされ眠る彼女を、女は出会った場所から遠く離れた異郷の地に封じる。


遥かな時が流れた先で、彼女が目覚めてしまったときに彼女の望みを叶えてやれる存在がいることを祈りながら。




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