短編

□ロイヤル レジェンド
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「白薔薇でも撒き散らしたらどうだね」

「問題はあちらがなにしてくるのかわからないところにあるんだセブルス」

「教授と呼べ」


すでに寮から研究室へと逃亡するまでに数回プレゼント攻撃を跳ね除けてきたルルーシュはげっそりとしている。
もう一人の当事者に匿われながら逃げ込んできたのをみて、やはりと頷いたのは卒業生としてこの学校の悪ノリの酷さを知っているからだ。
追っ手を欺くために身代わり人形と逃避行中の上級生はそういえばいつ戻ってくるのだろう。

小さな身体を柔らかく受け止めるソファに懐きながら、やけっぱちのようにルルーシュは唸る。


「無理難題を叶えたら受け取るとか宣言してやろうか」

「また日本の逸話か?」

「事欠かないぞ、あの国は」


小野小町の百夜通い、輝夜姫の5つの難題。
無理だろうから諦めなさいと、あの国の女性は朗らかに恐ろしい。

しかしここは魔法の世界、なかなか、実現可能な幅が広すぎる。


「ユニコーンの鬣…は子供だったら男でも簡単だし、あぁドラゴンの剥がれたての鱗は魅力的だが、それより水中人の涙とか…ダメだな、他の生き物を巻き込むものはリスクが高すぎる」

「森や湖の生き物との平和共存を尊んでくれて何よりだ」

「ダンブルドアの髭毟って燃やしたら受け取るとかどうだろう」

「どうしてそうなった」


齢11にして当代一の魔女の誉れを約束された少女は、どうしてか闇と光の両陣営首魁に対して至極冷たい。

歪だからだそうだ。
全て闇に飲まれろと叫ぶのも、全て光に満ちよと謳うのも。
善悪などない、あるのは二つの正義だと。

真に優れ己を知る者だけが持ち得る真理をいったいどこで彼女は学んだのか。
書物の字面では決してない、まさに彼女自身の経験だとでもいうような言葉は聞く人によっては排斥を望まれかねない刃だ。
つまり、己が善だと信じるものの根幹を揺るがしかねないといった意味で。

分かっているから、賢い彼女はスネイプの前でくらいしか異端の気配を見せない。
代わりに、不満は子供らしい悪戯とやらで発散していた。


『紳士淑女の皆様。
私の手は小さくて、一度に二つのものしか掴めないから皆様からの贈り物は残念ながら受け取れない。
私の右手は騎士たる皇子に、私の左手は愛する父に既に掴まれている。
それでもと望むなら、彼らの手を放してしまうような驚きを期待したいところだ……もしかしたら、偉大なる校長の髭が短く切り揃えられてしまったなら、私は口元を覆うために両手を空にするかもしれないな』


自動で勝手に魔法陣を描き出す奇っ怪なことこの上ない彼女の魔力は校内放送をジャックしたらしい、音割れして聞こえる声が校長にとっては恐ろしいたとえ話で結ばれるのをみてやれやれと肩をすくめる。

多分今頃、放送をきいたシュナイゼルは鉄壁のアルカイックスマイルの下で大爆笑していることだろう。
存外彼はルルーシュが関わると欲望に素直だ。


「…あとで校長に呼び出されるのは我輩なのだが?」

「人の閲覧履歴を大した理由もなく職権振りかざしてみたりした罰が下っただけだし、まさか本当に実行するような度胸のある生徒なんかいやしないさ」


すっきりした顔で紅茶を用意しているルルーシュは言う。
勿論それはその通りで、愉快な赤毛の双子が入学しホグワーツの薔薇の皇族達の噂を聞きつけ挑戦するようになるまでは、ダンブルドアの髭はひとまず平穏であったし、ルルーシュとシュナイゼルもまた穏やかな時間を手に入れたのであった。



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