短編

□それが伝説の始まり
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「君を演劇部の子達が血眼で探していたが、一体どうしたんだい?」


シュナイゼルは面白そうに机の下にしゃがみ込んで尋ねた。
恨めしそうに彼を見つめる子猫がそこに丸まっているのだ。


「…知りませんよ。見ていたでしょう?先輩も。
あれが全てです」

「いや、それがね。昨日は遅くまで本を読んでいたものだから朝は起きられなくて、“薔薇の女神”様がホグワーツの淑女の心を奪ったところは見ていないんだよ」


しゃーしゃーと言うが、そこまで知っていればルルーシュが語れること以上に事態を察している。
察したうえで、この人は全力でルルーシュをからかって遊んでいるのだ。


(性格悪いな!知っていたが!)


ぽーっと惚ける連中はまだいい、問題は熱を上げて暴走している連中で、シュナイゼルが言った演劇部を筆頭に午後からホグワーツ中を追い回されてルルーシュの体力は限界である。
図書館に這々の体で逃げ込んできたが、ここもそう長くは持ちそうにないし愉快犯には捕まるし、散々だ。


「全く、持ち運べもしない量を送りつけてくる輩も、何故だか追い回してくる輩も何を考えているのかさっぱりわかりませんよ…」


こそこそと辺りを警戒しながら机から這い出るルルーシュのため息に、シュナイゼルは珍種の生物を見る目をした。
本気で言っているらしいのだから、彼女の鈍さは凄まじい。


「さて、図書館の外はもう包囲網が完成されているようだ」

「どうにか抜けて、今日は薬学の補修とかの理由でスネイプ教授のところに逃げ込んでおきます」


さしもの演劇部も、年齢不詳の美形でありながらホグワーツ一の陰険教師のところまで特攻しては来ないだろう。

そこまで逃げ切れたらの話だが。

望みの薄そうな計画を立てている後輩を、ひょいとシュナイゼルは抱え上げた。
予想だにしなかった動きに、慌ててルルーシュは彼の首に掴まる。
大声あげるのを必死に堪えられたのは奇跡だ。
突然妙なことをしだした男を今度は見下ろせば、彼はとても楽しそうだった。


「先輩⁈」

「今日の君は女神様で薔薇のお姫様だから、安全なお城までは王子様のエスコートが必要だろう?」

「は⁉︎」

「教授のところまでだね、任せてくれたまえ」


どうしてそんなノリノリなんだと突っ込む暇もなく、シュナイゼルは静かにどよめく利用者たちに頓着せずルルーシュを抱えたまま図書館を出る。

ルルーシュを見つけて駆け寄ろうとした生徒たちは密かにスリザリンの皇子と呼ばれるシュナイゼルの姿に急ブレーキをかけて距離を取り、その廊下一帯はまるでモーゼの十戒の様を呈した。

確かに、これならばあっさりスネイプのところにたどり着くだろうけれど!


「これじゃあさらに面倒なことになるじゃないですか‼︎」

「はは、ホグワーツ生の噂なんて七変化の髪の色くらい長持ちせず変わるものさ。
先輩はうまく利用するものだよ」


何を言っても暖簾に腕押し、トロールに賛美歌を教えるような心地になって(勿論、彼はユニコーンとでも言うべきだが)、何度目かの押し問答のあとルルーシュは諦めた。

シュナイゼルは柔和な雰囲気に反してしっかりとした身体をしているのか抱き上げられても不安定ではなかったし、ぶっちゃけるとルルーシュも段々楽しくなってしまったのだ。

高笑いまで一歩前だったので、これは相当にテンションは上がっていた。


「今後のトラブル処理にも当然付き合ってくださいますね?」

「卒業するまでは必ずね」


くすくすと笑う、スリザリンの有名人たち。

それが早々にスリザリンの皇子と皇女と呼ばれるようになったのは間違いなくこの年のバレンタインのせいだったのである。




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