短編

□それが伝説の始まり
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「正しいバレンタインというものを久々に見た気がする」

花に埋もれながらルルーシュは遠い目をした。


朝から妙に周りが浮ついているとは思っていたのだ。
普段は寝静まっている同級生たちがざわざわと起きている気配がしていたし、習慣となった散歩に出ればホグワーツ全体がそのような有様だったし。
だが自分には関係ないだろうと、いつも通りにルルーシュは愛鳥を愛で、湖まで行って朝焼けと湖面の美しさを堪能し、気まぐれなオオイカに餌をやり、そして遠くで跳ねた水中人を確認してから大広間にやって来た。

そして今に至る。

日本では製菓会社の陰謀で女性が意中の男性にチョコを贈る日のようになっているが、もともとの謂れは許されない恋人たちを祝福した牧師を讃える日であり、一般的には男性が女性に花などを贈る日。
アッシュフォード学園では、かつての日本の風習をきいて以来、ミレイが暴走した結果チョコを投げつける日になってしまっていたので実に久しぶりの事態だった。

大広間に現れた途端に雪崩のごとく降り注いだ薔薇、薔薇、お菓子の箱に、薔薇の花束。
一瞬でルルーシュの姿は真っ赤な山の中に消えてしまい、流石に動揺している他の生徒の声がする。


(これだけ量があると、花の香りも馬鹿にできないな)


むせ返る程の花にいつまでも埋もれている訳にもいかない。

がさごそとどうにか杖を取り出し、口を開けば入ってきそうな花弁。
辟易としながら無言呪文に切り替える。


ふわりと音もなく持ち上がり、くるくると回転しながらコサージュへと変わっていく薔薇の花たち。
プレゼントのリボンは、中身を残して解け、コサージュの飾りとなる。

大広間中の視線を集めているのも気にせず、ルルーシュは杖先をテーブルへと向けた。


美しく、幻想的でため息が出るほど優雅な光景に見惚れていた少女たちのもとへと、生花のまま時を止めた花飾りが舞い降りる。


「気持ちは大変ありがたいが、花は美しい人のもとで咲くのが相応しい。
ホグワーツの淑女の皆様、貰い物ですまないが、受け取ってくれると嬉しい」


夢幻の世界に佇むかのような美しい人が驚く彼女たちにうっすらと笑んだ瞬間に、その年のバレンタインは恋人達を讃える日ではなくなってしまった。


それは、ただ一人を除いては大いに納得の流れであったのである。



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