短編

□日陰に咲く
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「グレンジャー、遅かったな」
「ごめんなさいマルフォイ。
ハリーとロンをまくのに手間取っちゃったわ」


必要の部屋に息を切らして駆け込んできたハーマイオニーの言葉に、大変だな、と返しながらマルフォイは紅茶のカップを示す。


「時間停止の魔法をかけてもらっているから、まだ香りも温度も淹れたてだ」
「あら、先輩来ていたのね」


解除呪文を唱えながらの言葉にこくりと頷くマルフォイをハリーやロンが見ていれば驚愕のあまり互いを抓りあったかもしれない。

マグル嫌いの純潔主義の、生まれながらのスリザリンが因縁深いグリフィンドールのマグル生まれの魔女と親し気に話している姿はそれも無理ないほど凄まじい光景だ。

しかし人種差別なんて見事な地雷をルルーシュの前で踏み抜いて以降マルフォイ少年の思考力は見る間に磨かれていっているため、過程を知る者からすると納得のコンビなのである。


「…無理にここに来なくても、寮の仲間を優先していいんだぞ」


しかしそれは知る者の間ではのこと。

ホグワーツにおけるハーマイオニーは、ハリー・ポッターの頭脳でありロナルド・ウィーズリーの監督者というのが一般的な評価だ。

実際彼女にとってバレたらろくでもないことになるスリザリンとの繋がりはリスクでしかないのだし、きっかけとなったルルーシュによる勉強会が機能しなくなったのだから、危ない橋を渡らずともよいのではないかと思う。


だが一度「仲間のところへ行けばいいじゃないか」とストレートに言って、ストレートに殴られたのでマルフォイは控え目な物言いというものを覚えた。
ついでに、一部始終を見ていたルルーシュに腫れた頬を医務室のお世話にならず元に戻す魔法も教えてもらった。


論理を極めて物理行使を躊躇わないというある意味恐ろしいにも程があるグリフィンドールの才媛は、手元の本に話しかけるようなマルフォイに軽く肩をすくめてみせる。

「マルフォイ、あなたまだそんなことを言うの?
私は家柄や所属や出身で友達は選ばないわ。
貴方がマグル生まれの私に謝罪して、向き合って、そしてこうして紅茶を振舞ってくれている優しさが好きだから私は貴方と友達でいたいのよ」
「紅茶は、」
「貴方が淹れた。わかるわ、それくらい。
先輩が淹れるともっと香りがふんわりしてる。
貴方が淹れると、とても控えめなのにほっとするのよ同じ茶葉でも」


それはきっと本人たちの性質が現れてしまっているのだと思う。
魔法界なのだ、あり得ないことではない。


ルルーシュは分かりにくいが存外素直に優しさを示す。
敵意や悪意には容赦無く、少しでも好意を抱けば溺れるほどに愛情深い人。

マルフォイは情緒の面でとても不器用で、それでも分からないなりに優しさというものを手探りしている人。
危なっかしくてとてもではないが離れるなんて考えられない。


「私を追い出したいのなら、初めて会った時みたいなとびきり嫌な奴になるしかないわね」
「…勘弁してくれ。
それをやったら僕は先輩に今度こそ魔法薬の実験台にされてしまう」


にやりと笑ったハーマイオニーの言葉に、マルフォイは態とらしく肩を落としてみせたけれど…仕草にそぐわぬ小さな笑みが彼の顔には浮かんでいた。



***



マグル生まれの者と同じテーブルでお茶を共にするなんて、ルルーシュに叱りつけられたりしなければ想像もできなかった事態である。


けれど、存外ドラコはこの現状を好意的に受け取っている。
なんせ、普段連れているのがトロールの様なクラッブとゴイルなので打てば響く様な会話の応酬というのはなかなかに新鮮だし、こちらに媚びない相手との会話は楽しい。



…それに調子に乗っていたことは否定しない。だが結局のところおべっかを使ってくる相手というのは父親を見ているだけでドラコを見てはいない。
貴族なんてそんなものだと分かってはいたが、その事実は幼い彼にとっては結構な衝撃だ。
力技でそんな現実を突きつけられても、親の名前を介さないで他人とかかわる術なんて知らないのにどうやって自分のことを見てくれる相手を得たらいいのやら。

泣きそうになった自分に、容赦なくそれまでいびっていたルルーシュはしょうがないと肩をすくめて、そうして紹介されたのがハーマイオニーである。


どうしてよりにもよって彼女なのかと思ったのは否定しない。
今になって思えば、色々と先を見通している人である。
ルルーシュは彼女のさばさばとした気質は考え込みやすい(他寮から言わせると陰湿かつ後ろ向きな)根っからのスリザリン気質の自分とうまくかみ合うと見抜いていたのかもしれない。


「目的を達成するために必要なこととは、緻密な計画と大胆な行動力だ。
より成功率をあげるなら計画は複雑で狡猾な裏をかく様なものであるべきだし、その難度の高い計画を遂行するには勇気が求められる。

私は、スリザリンとグリフィンドールは、かつてはそのような相補的な間柄だったんじゃないかと思う時があるよ」


いつだったか、ルルーシュの言っていたことだ。
聞いたときは何を突飛なことをと思ったものだが、こうしてグリフィンドールの人間と話すことが多くなってみれば一理あるような気がするし。


そうであればどんなに素敵だろうと、最近はよく思うのだ。





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