短編

□トンファーに愛を込めて
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§ § §


勇ましく骸を追いかける背中を見守るルルーシュの髪を、つんと星刻は引っ張った。
驚いたようにこちらを振り返る身体を腕の中に引っ張り込む。


トウキョウ租界壊滅の報を聞いていつかと同じような無茶をしながら蓬莱島に帰還してみれば、どこをどう踊らされたらそうなるのやら、扇を筆頭にゼロを殺害しようとする瞬間で、考えるより先に諦めたように笑うルルーシュの前に踊り込んだ。

しっかり離すまいと抱きしめたはずの人のぬくもりを感じられぬままに一人どこぞの森で雨に濡れながら目覚めた、あの時の絶望を星刻は忘れない。
怒りのまま、襲いかかってきた黒い影を闇雲に斬り捨て、銀色の髪の男とぼろぼろになるまで戦って互いに体力も尽き、そのまま荒みながら暗殺業に勤しんで。

彼女がいなくてもまともに動く身体と心を呪っていたとき、日本に向かうと告げられたのだ。
彼女が愛していた国、彼女を裏切った国。
本国に残れという命令を聞かないで海を渡ったのは因縁深いその名前が無視できなかっただけであったけれど、その偶然の先でルルーシュと再会できた時から星刻は残してきた主も部下も過去にすることを決めた。

骸に語ったことは嘘ではない。
星刻の全ては今真実ルルーシュのためだけにあり、その幸福と平穏のためならどんなことでもしよう。

自分が傍に居られなかった間、自分を探すルルーシュの傍にいてくれた「家族の様な」雲雀の幸せをルルーシュが願うのならばその手助けくらいいくらでもするし、少しくらいなら妬心に見て見ぬふりくらいしてみせる。

実際、彼女と雲雀の関係は悋気の激しい自分から見ても仲の良い姉弟というか・・・ロロとはまた雰囲気が違うので、そう、例えるなら双子のようであり似たような猫気質の二人が並んでいる様子はそこまで危機感を覚えはしないのだ。


「なんだ、星刻?」


不思議そうにこちらを見上げる瞳はきらきらと美しく、再び裏切られた痛みも悲しみも既に彼女が乗り切ったことを教えてきて、それが何よりも星刻は嬉しかった。

自分は中華連邦の天子の臣下で、彼女は日本の革命家

それぞれがそれぞれの民を背負うが故に手を伸ばせなかったことがある、しかしこの世界では自分達はただの男と女でいられるのだ。
重いと思ったことも辛いと感じた事もなかった、それでも確かに互いが抱えていた柵が失せて驚くほどに身軽になり、他愛のないことのために全力を注いで笑うルルーシュをこの腕に抱きしめることができる。


「・・・幸せになろう、ルルーシュ。恭也と骸、ボンゴレ達やヴァリアーに、君が愛しいと思う全てに囲まれて。今度こそ、私はその全てを護って君を幸せにしてみせる」



もう二度と奪わせない、そう誓う星刻をじっと見上げていた紫水晶がぱちりと一度瞬く。
どうしてまた、雲雀と骸をくっつける作戦の途中にその思考回路に陥ったのだかはさっぱり分からないし、この男はなにやら考え過ぎである。

思い詰め過ぎて寄っている眉間の皺に指先でそっと触れて、そのまま唇へと移動させた。


「バカだな星刻」


吐息を爪に感じて、思わず口元が緩む。


何が原因でこちらにきたのかはわからない
あちらがどうなっているのかは気にかかる
  
それでも
  
もう二度とあちらに戻りたいとは思わないのは


「お前がいる。
それだけでどんな場所であっても私は幸せなんだって、まだ分かっていないのか?」


眩いライトと向けられた銃口、そして兄の姿を見た時に
庇おうとしたカレンが足を撃ち抜かれて彼らのところに引きずられるのを見た時に
・・・自分が居ないほうが、きっと世界はうまく回るのだろうと

思った瞬間に音が掻き消え色彩も褪せた


なのに、この男だけはそのまま、閉じていく自分の世界に存在していた


天子のために生きるのだと言っていたくせに銃弾から庇おうと抱きしめてくれた、あの瞬間から、私の世界は星刻になった。
ロロを窘めた張本人のくせに笑えることだが、だって、仕方ないだろう?


(お前が私の世界そのもの)


勿論恭也も綱吉も、この世界で知り合った優しい人達は大切だけど。
珍しくも泣きそうな顔をしてきつく抱きしめてくれる腕には変えられないのだと、この愛しい男に分からせるため、それこそ珍しいことに自分から男に口づける。


(世界と引き換えにしてもいいほどの相手だと、恭弥、お前も今伝えているか?)


空を舞う人影を眼の端に捕えながら、満足そうにルルーシュは笑った。




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